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第3話・ヘソディムマニュアルの紹介(1)
〜東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」

 前回まで、2回に分けてヘソディムの基本的な考え方を紹介しました。しかし、実際の圃場でヘソディムをどのように使っているかについては、まだイメージができないのではないかと思います。そこで、ここでは全国の県、農研機構の方が作成したヘソディムマニュアルについて紹介したいと思います。地域の栽培環境等に合わせて作られたものですので、各地での活用の様子が少しはイメージできるのではないかと思います。

 


 

ヘソディムマニュアルの考え方

 

 マニュアル作成で特に重視したのは、①診断で用いる項目はコストを考え最小限にする、②評価では、過去に開発された多くの防除技術を効率的に使えるようにするために、発病しやすさ(以下、発病ポテンシャル)を3段階(レベル1〜3)で示す、③対策ではレベル毎に防除技術のリストをつくり、とくに対象地域で伝統的に活用されている防除技術などを有効に活用する、とでした。
このことから、同じ作物・同じ病害のマニュアルであっても、県あるいは地域によって診断や対策の内容が異なることになります。実際に、このことを確認するために、プロジェクトでは同じ病害を複数の県で検討し、各県や農研機構で独自のマニュアルを作っていただきました。

 


 

ヘソディムマニュアルの「見本」

 

 2013年2月に農林水産省委託プロジェクト「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のための技術開発:【土壌病害虫診断技術等の開発】(2010-2012)の成果として、初めてヘソディムマニュアルが作成されました。最初に、言い出しっぺの私たちが「見本」を作りました。内容は、1)ヘソディムとは、2)ヘソディムで行うこと、3)診断の概要、4)評価方法、5)具体的な対策、6)ヘソディムが目指すもの、となっています。

 

診断の概要

 最初に「診断のポイント」として、①畑を定期的に診断して診断表を作る、②診断結果は必ず保管して毎年蓄積する、ことを強調しました。次に、「診断項目」の例として、「前作発病度」、「病原菌の有無」、「土壌の性質、栽培履歴」、「DRC診断」(注1)を示し、項目毎に診断の意義、診断方法などを紹介しました。プロジェクトでは、診断項目候補として数十項目の情報を集めていましたが、実際に生産現場で使う診断項目は、先に述べたとおり、労力、コストを考えて最小限にするようにしました。次に、それぞれの診断項目について、ヒトの健康診断で見られる「基準値」を作るようにしました。なお、この基準値については、統一基準がないため、マニュアル作成者の判断で作ってもらうことにしました。

 

(注1)DRC診断:
Dose-Response Curveの省略形です。圃場の発病程度は同じ品種を用いても、あるいは同じ病原菌密度であっても、圃場によって異なることが経験的に知られています。そこで、私たちは東北農業試験場時代に、「(圃場の)病原菌・(栽培されている)品種・(圃場の)土壌」を用いたポット試験により、その圃場が発病抑止的になっている助長的になっているかを調べることにしました。言い換えると、「圃場の体質」(発病助長的な圃場か発病抑止的な圃場か)を知った上で、「体質に合わせて診断・対策を行う」という感じです。なお、この診断法はポット試験で1か月以上かかるものですから、生産現場でも現在のところ普及はしていません。しかし、最近になり、わたしが所属する「NPO法人圃場診断システム推進機構」の賛助会員である株式会社CTIフロンテイアがDRC診断受託事業を開始しました。分析窓口は系列企業の環境総合リサーチとなっています。「圃場の体質」を知ることは、診断する上でとても重要で最終的には低コストに繋がると思っています。ぜひ活用していただけたらと思います。

 

評価方法

 診断項目毎の「基準値」を基に「総合評価」し、発病ポテンシャルで3段階(レべル1、2、3)に分けました。大まかな基準としては、以下のようにイメージしました。

 

レベル1:化学農薬を用いず土づくりや資材等を活用して対応するレベル
レベル2:化学農薬を最小限にして代替技術や抵抗性品種等を活用して対応するレベル
レベル3:化学合成農薬や輪作など思い切った手段が必須なレベル

 

実際には、各レベルの基準についてはマニュアル作成者にお任せしました。その理由は、地域、病害、生産者や作成者のニーズによって考え方は多様だと考えたらからです。

 

具体的な対策

 ヘソディムでは、化学農薬、抵抗性品種、土壌pH矯正、輪作、生物資材、各種資材などあらゆる技術を発病ポテンシャルのレベル毎にリスト化するようにしました。たとえば、レベル1では生物農薬A、抵抗性中品種C、有機資材D、土壌矯正、抑止土壌の利用など、レベル2では、生物農薬Q、抵抗性中~強品種H、有機資材P、土壌矯正、太陽熱消毒などがあります。そしてレベル3では、土壌消毒L剤、抵抗性強品種J、輪作などを紹介しています(図:防除対策リスト参照)。
 実際には、リストの中から、コスト、労力等を考慮して、各圃場に最適な技術を使用することが重要になります。


 

今回はここまで。次回からは、今回紹介したヘソディムマニュアルの「見本」を踏まえ、各県、農研機構が作成したヘソディムマニュアルについて紹介していきます。

 

※對馬先生の「ヘソディムの話」
第1話(新しい土壌病害管理(ヘソディム)の紹介 前編
第2話(新しい土壌病害管理(ヘソディム)の紹介 後編

 


 

■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る