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第13話・ヘソディムマニュアルの紹介(10)~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」
はじめに
まず、ヘソディムに関する新しい情報を2つご紹介します。
● HeSODiM-AIアプリと普及活動について
以前この「ヘソディムの話」で紹介した、現在進行中の農水省委託プロジェクト「AI(人工知能)を活用した土壌病害診断技術の開発」(2017~2021)では、ヘソディム支援HeSODiM-AIアプリを開発中です。プロジェクト終了後の普及を推進するための活動のひとつとして、「ヘソディム指導員」を対象とした「HeSoDiM-AI普及のための勉強会」を本年4月から12月までの間に、大学の講義形式で15回にわたり開催することにしました。すでに第1回を4月23日に開催しています。講義の内容は、前半はヘソディムやヘソディムマニュアルについて学んだ後、後半でHeSoDiM-AIアプリの活用法を紹介する予定です。一定の条件(出席日数など)をクリアした方には、≪HeSoDiM-AIアプリマイスター≫認定証をお渡しすることになっています。ヘソディムに興味のある方はぜひ参加いただけたらと思います。
● ヘソディム講習会について
2つ目の情報です。NPO法人圃場診断システム推進機構主催では、これまでヘソディムを理解していただくために、ヘソディム講習会を開催してきました。通常はあくまでもヘソディムに関連する事柄を中心に開催してきましたが、現在、ドローン特集として、ドローンの活用の現状などを経験者の方にお話をいただいています。すでにSAcとの共催で第8回ヘソディム講習会(2月26日)、第9回ヘソディム講習会(4月16日)の2回実施していますが、引き続き、ドローンについて勉強していきますので、ドローンにご興味のある方はぜひご参加いただけたらと思います。
「HeSoDiM-AI普及のための勉強会」・「ヘソディム講習会」につきまして、開催情報は「NPO法人圃場診断システム推進機構」のHP上で掲載しています。詳しくはこちらをご覧ください。
第12話に引き続き、アブラナ科野菜根こぶ病以外の病害マニュアルから、静岡県のネギ黒腐菌核病マニュアルについてご紹介します。
静岡県のネギ黒腐菌核病マニュアル
冒頭で病原菌、宿主範囲、病徴の記載があります。まず、本病の病原菌はSclerotium cepivorumです。菌糸から分離しやすい菌核を形成するという点で、形態学的定義に基づく菌類に属します(窪田、2012)。ネギ属植物のネギ、タマネギ、ニンニク、ニラ、ラッキョウに感染するのですが、本病原菌がネギ属以外の野菜に病害を引き起こした報告はなく、宿主範囲が限られている(窪田、2012)とのことですので、この特徴は生産現場で伝染源を推定したり、圃場衛生などの予防対策を行う上でとても役立つかもしれません。植物に発病すると、初期は葉先枯れなどの症状がみられ、進展すると地際を軟化腐敗させ菌核を形成します。
● ネギ黒腐菌核病にかかったネギ(静岡県マニュアルより)
本マニュアルでは、発病株は収穫時に株元に菌核を形成していることから判別します。比較的低温(5-20℃)を好み、菌糸成育は15-20℃で最大になります。病原菌の植物への感染はpH7.0以下が好適とのことです。菌核は微小な黒色で大きさは直径200~1000μm程度です。
興味深いことに、病原菌の密度に関しては、タマネギでは作付け前に土壌100gあたりに菌核が2個あれば収穫時に90%以上の株で発病したという報告があり、傷があるところに菌核をつけると1個でも容易にネギを枯らすとの記載があります。とても恐ろしい病害であることがわかります。
【診断】
診断項目の1つ目は、収穫時に「前作の発病程度」、「周辺ほ場の発病」を達観で調査すること、2つ目は対策実施前に「土壌pH」、「土壌中の菌核数」を調べることです。
プロジェクトで静岡県の生産現場を訪問した際に、県、JA、生産者の方から、病原菌がと近くの汚染圃場から風で飛んでくることを懸念しているというお話を聞きましたので、周辺圃場の発病調査を重視していることがわかります。
〇 土壌からの病原菌(菌核)の調査
ネギに付着している菌核の画像です。このように、本病原菌は植物に感染した後に菌核を多数形成し、それが翌年の伝染源になります。そのため、このマニュアルでは菌核の調査の重要性と調査法を示しています。圃場5か所から各500g程度ずつ採種し、地点毎に菌核数を調査するとのことです。
≪よく出るサンプリングに関する質問≫
圃場の病原菌密度の診断などの話をすると、かなりの頻度で以下の質問がでます。ヘソディムではとても重要なことですので、考え方を書きます。
Q1
圃場のある地点で一つのサンプル(5点法で土壌を採取)を採取し、病原菌の有無あるいは菌密度を推定しているが、たった1か所のサンプリングデータで圃場の診断ができるのか。
Q2
1の場合、圃場のどこを調査したらいいか。
A.
わたしは若い頃、田んぼのイネ群落の発病株の分布を調べたことがあります。目的は田んぼの平均発病率の推移を調べることでした。必要ならそのデータからサンプル数を決めることもできました。通常、研究者が圃場の平均発病株数を調べたい時は、予め発病株の分布様式(集中分布、一様分布、ランダム分布など)を調べ、その情報を基に、サンプリング数を決定していると思います。当然、どのような分布であっても圃場の平均発病株率を出そうとすると、多数のサンプルが必要になります。しかし、ヘソディムでは1~2か所からの土壌サンプルで圃場の診断をしますので、圃場の平均病原菌密度を推定しているのではないこと、しようと思ってもできないことを理解する必要があります。それではどこを何のために診断するのでしょうか。わたしの回答は、「それぞれが、何のために調査するか目的を明確にして、その目的に応じて診断してください」ということになります。以下のようなケースが考えられると思います。
ケース1
(目的)圃場の病原菌密度を減らしたい。
(対応例1)圃場内で最も発病の多い箇所の土壌をサンプリングし計測する。
(理由)最も病原菌密度の多い箇所の数値を目安にして、その数を減らせば目的を達成できるであろう。
ケース2
(目的)圃場でなぜか特定の個所が発病している。そこだけ病原菌数が多いのか、まず情報がほしい。
(対応例1)その特定個所の病原菌密度を計測する。比較対象のために、発病の少ない場所の密度を調べるとさらに良い。
ケースを2つほど上げましたが、ヘソディムの土壌サンプリングを行う場合は、生産者、指導員が診断する目的をしっかり考えることが重要です。技術自体は決して万能ではありません。その技術の長所・短所を理解した上で使いこなすことがヘソディムではとても重要です。ここでも、考えた上で利用できなのであれば使うことができませんが、「サンプルが少ないと圃場の菌密度を正確に知ることはできない。よって使うことはできない」など、簡単にあきらめない姿勢が必要です。
○ 菌核の回収法
以下の手順で菌核の回収、計測をするとのことです。
①土500gの中から100gを採取
②2㎜目合いの篩の下に菌核捕捉用の0.18㎜目合いの篩を重ね、篩上の土を蓄圧式ハンドスプレーで洗浄。0.18mm篩上の残留物を水で洗い流すように300mlビーカーに移す。
③ビーカー中の水と等量の0.5% 次亜塩素酸ナトリウムを加え、マグネチックスターラーで撹拌しながら2.5分間表面殺菌。以下、省略。マニュアルをご覧ください。
今回はここまで。次回は、引き続き静岡県のネギ黒腐菌核病マニュアル【評価】【対策】をご紹介します。
■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る