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第32話・20xx年の生産者の会話①~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」
ヘソディムの最終目標は、『ヘソディムで土壌病管理解決!』です。
イメージとしては、病気は少し出るが、『病気がでない土づくり』と『早め早めの対応』で、損益が出るほど被害が大きくない状態を維持している生産者といった感じです。しかし、そうした圃場管理を実現するためにどうしても必要なことがあります。それは、画期的な技術ではなく、『圃場の状況に応じてあらゆる技術を圃場に最適な方法で使いきる生産者・指導員』です。これは簡単ではありません。たとえば、「この圃場に最適なものは何か」を考えるためには、日常的な圃場観察(将来はドローン、ロボットも使用)、それにもとづく試行錯誤(AIも活用)は必須です。そして、その時、圃場観察に基づく仮説検証が有効な手段になることをこれまでも紹介してきました。
こんなことを書くと、「それは大学院で習うようなことだ。生産現場ではとても無理だ」という人もいると思います。確かにそれは、現時点では言えるかもしれませんが、私自身は10年後、20年後には、このような「科学的アプローチ」を生産者集団が普通に行っている時代を作らなければならないと考えています。そのため、これからヘソディムを目指す人には、講習会や勉強会を通じて、一緒に勉強していただけたらと思っています。
次に、ヘソディムの課題は他にもあります。それは、「新しいことに挑戦する生産者の育成」です。
しかし、これも日本人はとても苦手と言われています。私自身が若い時に経験したことですが、『発病の蔓延を防ぐために、発病株を抜き取ってください』とお願いしたことがあります。その時に、『圃場で発病株を探すのは大変だ。農業をわかっていない。』と言われたことがあります。最近になって、ヘソディムでは発病株の抜き取りを対策にしているケースがありますが、それも『これまでの作業の延長線上』で考える限り、仕事が増えるだけなので『大変だ』となります。これは、『新しいことに挑戦すること』の意味が理解されていないからだと考えます。
最後に、これまでの経験から、前述の『新しいことへの挑戦』をするためには、経営者としての確固たる信念が必要だと考えるようになりました。
ヘソディムの場合ですと、長期的に持続的に土壌病害を管理するのか、短期的に一年一年の結果で翌年の対策を考えるのか、で対策は異なります。どちらを選ぶかは経営者としての考え方の問題になります。本来、ヘソディムは土壌病害を克服して持続的農業を実現するために提案したものです。当然、持続的農業の実現のためには長期的対策が必要ですし、これからはさらにSDGsなども考慮した診断・対策技術の活用が必要になると思います。このように、経営者自らが長期的目標をもち、その目標達成のために必要なら、たとえ「新しいこと」でも、速やかに意思決定して取り組むことが求められると考えます。
今回はここまで。次回は、そのような生産者が育ったと仮定した『20xx年の農村風景』のイメージをご紹介します。
■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授(2022年退職)
2022年 NPO法人圃場システム推進機構内にHeSoDiM-AI普及推進協議会を設立(代表)
現在に至る