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第2話・新しい土壌病害管理(ヘソディム)の紹介 後編
〜東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」

前回(第1話・新しい土壌病害管理(ヘソディム)の紹介 前編)の続きです。

 

 ヘソディムの「基本的な考え方」について紹介します。なお、ここで紹介する内容の多くは、農林水産省委託プロジェクト「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のための技術開発:【土壌病害虫診断技術等の開発】(2010-2012)等で得られたものです。

 


 

ヘソディムとは

 

 ヘソディムは、「健康診断に基づく土壌病害管理」(HeSoDiM:Health checkup based Soil-borne Disease Management)(Tsushima & Yoshida, 2011)の略称です。
 この名を付けた理由は、ヒトの健康診断をイメージしたからでした。ヒトの健康診断では問診、血液検査などを行い、その結果と診断項目毎の「基準値」を基に、お医者さんが診断・評価を行い、受診者に指導をしています。その際、あくまでも基準値に基づき診断評価するので、お医者さんが「いつ病気になる、どのくらい発病するか」などを具体的に言うことはないと思います。

 土壌病害では発生を予測して対策を指導することが理想だと思います。しかし、過去にも発生予測モデルの研究はありましたが、予測が正しくないと防除の指導はできない、ということをある県の方から聞いたことがあります。そこで、ヘソディムでは発想を変え、発生予測はできなくても、大まかな基準値を基に指導員と生産者が圃場の健康を評価し、対策を考えるような仕組みを作ることにしました。そんなこともあり、へソディムの最初の発表(2012)では「予測に依存しない新しい土壌病害管理」であることを強調しました。ヘソディムでは「発病ポテンシャル」(後述)で評価しますが、これは「発生予測」ではなく、「圃場の健康を評価するための基準値」にすぎません。

 

 

 次に、この新しい方法論(システム、概念と呼んでもよい)に意識的に名前を付けて提案した理由を書きます。ヘソディム提案当時は、全国でもDNA診断技術(病原菌の特異検出、土壌微生物相の解析など)を理解して使える研究者、技術者は限られていたため、仮に一部の地域である種のDNA診断技術が利用されたとしても、マーケットが小さく、とてもDNA診断技術の事業化は難しいだろうと考えました。そこで、一つの統一的手法を提案することで、ヘソディムに関わる研究者らの交流が深まり、結果的に、それにともない自然にマーケットが広がるのではないか、と考えたのです。

 もう一つ重要なことがあります。それは、たとえ作物や対象病害が異なっていても、「ヘソディム関係者」として交流しているうちに、他の病害の情報や診断・対策技術を知ることができ、長い目で見た時、自分の農業技術の活用等に役立てることができるのではないか、ということした。

 新しい方法論(概念)の提案は、時に、個別技術を開発するより多くの技術や科学の発展・普及に大きく貢献すると考えます。その代表的例としてIPM(Interated Pest Management)があります。一人の米国の研究者が提案した「総合防除」を基に命名されたIPMは、今ではFAOはじめ世界の各国で取り組まれています。しかし、日本人は海外発の方法論(概念)は利用しますが、自分たちで提案して活用するのが苦手のようです。しかし、かつては、北大の伊藤誠哉先生が、日本独自の「総合防除」(1932年)を提案し、長野県、大学等が参加して農林省事業が進められています(對馬、2017)。今後、ヘソディムに限らず、いろいろな考え方が提案されることを期待したいと思っています。

 


 

ヘソディムの条件

 

 各種診断技術の事業化、ヘソディム指導の育成を行いながら、同時にヘソディムを全国で展開していくためには、前述したように、方法論(概念)の間違った使い方がなされないようにする必要があります。そこで、「ヘソディム」と「ヘソディムでないもの」を明確に分ける必要があると考え、以下のヘソディムの基準(条件)を作りました。

 

条件1「診断・評価・対策」をセットにしたシステムである
条件2「評価」を「発病ポテンシャル」で3段階(レベル1、2、3)に分ける
条件3「発病ポテンシャル」レベル毎に対策リストを作り、最適なものを使う

 

 条件はたった3つですが、実際に、この条件を満たすマニュアルを作り、生産現場で活用できるようにするのは従来の考え方では簡単ではないと思います。たとえば、「画期的なDNA診断技術を開発した」という成果が出たとしても、これではヘソディムではありません。ヘソディムでは、「DNA診断技術」で得られた結果をどのように評価して、どのような対策を行うか、を示す必要があるからです。同様に、「新規の対策技術ができた」という成果が出た場合も同じです。単に効果があるではなく、どのような時に使うのが良いか(レベルに応じた適切な対策)を示す必要があります。

 


 

ヘソディムの条件ごとの紹介

 

条件1について

良い診断技術が普及するとは限らない、診断から対策まで示さないと普及しない

 条件1はヘソディムで最も重要なことです。「診断・評価・対策」のセットにした理由は、「診断技術」の成果を発表したとしても、それが実際の生産現場で使われるまでには簡単に普及しないのではないかと思ったからです。理由はいろいろあります。一つは、最先端のDNA診断技術の開発に関わっている方は必ずしも病害の専門家ではないということでした。もう一つは、仮に病理の専門家が使う場合でも、土壌に病原菌がいることを明らかにしたとしても、対策に結びつかなければ使ってもらえないということでした。このことから、少なくとも診断した結果から対策を示すことができることがヘソディムの普及には必須と考えました。

 

条件2について

発生予測はできないが、大まかな基準で圃場の発病ポテンシャルを評価する

 昔から、キチンなどの有機資材やおとり植物、生物防除剤が、発病の少ない時などに効果があることは知られています。しかし、その一方で激発圃場では効果が劣ることから、普及が十分に進んでいないと思います。こうした資材等を何とかうまく利用することができないかと考え思いついたのが、「発病ポテンシャル」で、それを3段階に分ける方法でした。レベル1や2の時には、上記の資材等をうまく使うことができると考えました。また、これにより、病害にもよりますが、農薬はレベル2以上で使う、レベル3以上のみで使うなど、農薬の効率的利用もできると考えました。

 

条件3について

新旧の防除技術を効率的に使いたい

 「発病ポテンシャル」のレベル毎に対策リストを作ることにより、既存技術も有効活用できるようにし、より経済的に低コストの対策が可能になるのではと考えました。

 


 

条件1、2、3から言えること

 

 以上のことから、ヘソディムは以下の特徴があると考えることができます。

特徴1:常に診断~対策まで考えている
特徴2:予防を重視したものである
特徴3:圃場毎に管理するものである
特徴4:新旧のどんな技術も有効に活用することができる技術のプラットホームである
特徴5:常にコスト、技術の効率的利用を考えることにより強い農業作りに適している
特徴6:ヘソディムの「診断」の対象は「植物」ではなく「圃場」である

 

 

【引用文献】
1.Tsushima, S. and S. Yoshida (2012) A new health checkup based soil-borne disease management (HeSoDiM)and its use -Introduction of MAFF project(2011-2013-. TUA-FFTC international seminar on emerging infectious diseases of food crops in Asia. Abstract, 204.
2.Tsushima, S. (2014) Integrated control and integrated pest management in Japan:
the need for various strategies in response to agricultural diversity. J Gen Plant Pathol
DOI 10.1007/s10327-014-0538-y. この論文の日本語版:日植病報 80特集号:188–196(2014)
3.對馬誠也(2017)学会誌100周年記念企画 Series 2 「植物病理学は本邦農林業界に對し如何なる貢献をなせしや 伊藤誠哉」Jpn. J. Phytopathol. 83(2).107.

 


 

■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る