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第24話・HeSoDiM-AIの紹介(3)~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」

第23話に引き続き、現在開発中のAI(人工知能)を活用した「HeSoDiM-AIアプリ」(以下、AIアプリ)の紹介をしたいと思います。

 

3. HeSoDiM-AI及びAIアプリの長所と欠点を知る

ここから、HeSoDiM-AI とAI(人工知能)そのものに関して説明したいと思います。
毎月開催されるヘソディムに関する検討会での専門家との話合いの中で、わたし自身がとても勉強になったことです。AIアプリを使う上でとても役に立つと思いますのでご紹介します。

 

① HeSoDIM-AIの特徴1:データの活用については100% AIまかせではない

HeSoDiM-AIは、収集データを基に、病害発生に影響する要因の解析を行い、診断項目の候補として重要度の高い要因を選び出します。その中から、特に上位に出てくる要因について検討会で人間が検討し、最終的に「重要な要因」と判断されたものが実際のAIの診断項目に使われます。

 

HeSoDiM-AIのポイントは、完全にAIまかせではなく、人間の判断も加わって最終的に診断項目を決定していることです。「診断項目の決定には人間がかかわっている」ことが、HeSoDiM-AI の特徴です。

 

② HeSoDIM-AIの特徴2:AIが出す結果には、人間には理解できないことがある

AIは時に、人間の予想を超えた結果を示すことがあります。
たとえば、ある病害の発生には「土壌pH」が明らかに影響を及ぼすことが分かっていても、それが「重要な要因」として出てこないことがあります。また、前作発病度の発生程度は明らかに次作の発病に影響するはずですが、これも「重要な要因」となって出てこないことがあります。

 

なぜ、明らかに影響のある要因が「重要な要因」として出てこないのでしょうか。要因は未だにわからないものもあるのですが、ある程度理解できることもあります。

 

繰り返しになりますが、たとえば、ある病害では土壌pHが重要な要因となることが科学的に明らかであるにもかかわらず、AIが出す重要な要因としては表示されず、pH以外の要因が発病に関与しているとAIが判断する場合があります。理由のひとつとしては、データを収集したすべての圃場が過去に土壌病害対策でpH矯正されていたため、学習用データとして用いたpHの値に大きな差がない場合などが考えられます。実際に、生データを調べてみるとそのような傾向(圃場間のpHの差がない)があることがわかります。また、前作発病が多いと発病にマイナスに影響する、つまり発病が少なくなるという荒唐無稽な結果が出る場合もあります。この点も理論的にはあり得ないことなのです。考えられることとしては、前作の発病が多かったので生産者が次作で防除を徹底したことにより発病が少なくなったのではないかという話になったことがあります。

以上のように、人間の予想に反する結果をAIが表示することがしばしばあります。しかし、その表示が間違っているのかというと、必ずしもそうとは言えません。むしろ、その結果を基に診断した方がその地域や栽培環境の実情に合っているのかもしれないのです。HeSoDiM-AIの出力結果は異なる地域や栽培環境ごとに収集したデータに基づいて作られていることから、診断する地域や圃場によっては診断項目が異なっても決しておかしくないと考えてAIアプリを使うことが重要です。また、AIアプリの診断項目の信頼度はデータ量に依存しており、データ量が少なく信頼度の低い診断結果が出た時には、その結果の判断を慎重に考えることが重要であることも忘れないでください。

 

以上から、HeSoDiM-AIの特徴として以下が挙げられます。

 

● AIが出す結果はデータの量と質に依存している。

● データ数がある程度多いことが前提ではあるが、仮にAIが荒唐無稽な診断項目を表示したとしても、ただちに否定することなく、その結果は、データを収集した地域や栽培環境に適した診断項目を導き出しているかもしれないと考えて対応することも重要である。

● その上で、その荒唐無稽な診断項目の有効性について、実際に圃場で「科学的」に「仮説検証」を通じて確認するように心がける。

 

今回はここまで。次回は、上記で示したHeSoDiM-AIのそれぞれの特徴について、掘り下げてご説明します。

 


 

 

■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る