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第1話・新しい土壌病害管理(ヘソディム)の紹介 前編
〜東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」
今回、本スマート農業協同体(SAc)でヘソディムを紹介させていただくことになりました。ヘソディムは、2012年に私たちが提案した新しい土壌病害管理法です(Tsushima & Yoshida, 2012、Tsushima, 2014)。提案してからまだ8年しか経っていませんので、初めて聞いた人も多いのではないかと思います。農林水産省の事業に関わっていた時に、事業関係者(農水省、県など)から複数の要望をいただき、その解決策を私なりに考えている時に思いつきました。具体的には、(1)土壌微生物、病原菌等のDNA診断技術ができても診断結果をどのように対策に役立てるかを示さないと使ってもらえないだろう、(2)仮にある地域で診断技術の利用ができたとしても、それだけでは市場が小さくて事業化が難しいだろう、(3)臭化メチル代替技術の開発や深刻化する土壌病害を適切に管理して持続的な農業を行うにはどうしたら良いか、等の課題を解決することでした。これまでの経験から、多くの土壌病害では大発生してからの対策が難しいことは周知のことです。
そのようなことを考えている時に、自分がいつも行っている健康診断のことを思い出しました。ヒトの健康診断のように、発病前から圃場を「診断」し、「予防」を重視する新しい土壌病害管理を行うことができたら、仮に完全な診断技術や防除技術等がなくても、持続的な農業の推進が可能なのではないか、と考えたわけです。偶然ではありますが、最近テレビで毎日のように放送されている新型コロナウイルスの「3密」対策のように、土壌病害が発生しないようにする、あるいは小発生時の対策なら高価な防除技術がなくても、ヒトの意識と行動である程度の対策ができるのではないか、などと漠然とイメージしました。その一方で、ヘソディムは、発病前から圃場を診断する(先行投資)、圃場毎に対応する、大まかな基準で対応するなど、今までとは異なる新しい考え方なので、新しいことが苦手と言われている日本で、全国に普及させるのは難しいだろうと思っていました。こうしたこともあり、新しいものを普及させるには、「技術の紹介だけでは無理だ」と思い、最近よく研究プロジェクトや起業の時に出てくる「イノベーション」や「人材育成」の考え方なども勉強してきました。
ところが、実際にスタートしてみると、わたしが予想していた以上に、ヘソディムの取り組みは進展しました。それは、農林水産省の複数の事業の中で、多くの県の方々が積極的に取り組んでくれたからでした。その結果、多くの病害のヘソディムマニュアルが作成され(図参照、農業環境技術研究所、2013、2016)、さらに、最近では、JAみえきたで県・JA・生産者が一体となってヘソディムによるキャベツ根こぶ病の被害を著しく減らしています。ここでは、新しい考え方であるヘソディムについて、何回かにわけて紹介したいと思います。ヘソディムの普及には、技術の紹介以外に、それを支える人達の育成や、診断受託事業の充実などが必要ですので、技術論だけではなく、人材育成、事業化などについても書くことになりますのでご了承いただけたらと思います。
第1話の前編はここまで。後編では、ヘソディムの「基本的な考え方」について紹介します。
■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る