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第21話・仮説検証について(4)~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」

「ヘソディムの話」ではこれまで、マニュアルや個別技術(診断、防除技術など個々の技術のこと)のお話をしてきました。第18話から少し話題を変えて、ヘソディムを考える上で大切な「仮説検証」の紹介をすることにしました。今回は、農業関係者の皆さまが圃場で活用できる仮説検証についてご紹介いたします。

 

4. 圃場でできる仮説検証

生産現場では、土壌病害に関して、病害の発生に伴う問題や、診断や防除に関する疑問などが日々生じているのではないでしょうか。繰り返しになりますが、このような時に、ヘソディムでは、問題、疑問をそのままにしておくのではなく、圃場の一部を使ってでも、簡単な仮説検証の試験を行うことを勧めています。

ただし、その際に、以下の点を理解していただけたらと思います。

 

① 研究者のように実験計画に基づき何回も実験を行って結果を出しているわけではありませんので、結果から直ちに「仮説は正しい」と考えるのは難しいです。

 

② 仮説を否定する結果にはならなければ、「この圃場では仮説は使えるかもしれない」などはいえるかもしれません。それを自分で確かめるだけでも、「勘」に頼るよりは、少しは自信をもって物事にあたることができるのではないでしょうか。

 

③ こうした取り組みを繰り返すことで「科学的アプローチ」とはどういうことかを理解でき、「科学的」に議論することができるようになると考えます。

 

 

5. 一般解(法則など)と特殊解(特殊なケースだけに当てはまること)

この点を理解することも、複雑な要因が関与する土壌病害で仮説検証を行う際に重要です。

前述したように、研究者は同じ実験を複数年、複数の圃場で検証して「仮説は正しそうだ」とします。このことから、実験回数や実験場所が多いほど、「この仮説はどの圃場にも当てはまるといえそうだ」となり、「一般解」に近い結果が得られたと考えます。しかし、その一方で、こうして研究者が得た結果も、別の生産現場では意外に使えなかったなどの事例は過去に多数あったと思います。それは、土壌条件、栽培条件、自然条件、作業工程などが複雑に関係する土壌病害(土壌病害に限らないが)の特徴によると考えます。このことから一般解を求めることの限界も知っておく必要があると考えます。言い換えると、個々の圃場だけに当てはまる仮説(特殊解)もあるかもしれないと考えることも重要だということです。

このように考えると、生産者が知りたいのは、「自分の圃場で使える仮説」ですので、仮に研究者が出した仮説(一般解)が自分の圃場に当てはまらなくても驚いたり、その研究は間違っている、などど考えずに、その仮説は自分の圃場には当てはまらないのかもしれないと考え、自分で確かめてみることが重要だということになると思います。

 

 

6.仮説検証の練習

仮説検証について、下記に練習問題を作ってみました。問題を考えながら、仮説検証について考えていただけたらと思います。

 

練習問題1 

以下の文章ではどの推論法を使いますか。

1)「多数のデータを基に仮説を作った」

2)「仮説を検証するための実験計画を作成した」

 

練習問題2

「○○病では、生育期間中に発病株で増殖した病原菌が病原力を持って隣の株、さらに隣の株へと発病を引き起こすことが言われている。このことから『早期に発生した発病株の抜き取りは圃場での病気の蔓延を防ぐ』と仮説を立てた。」

この仮説を圃場で検証する方法を提案してください。

 

練習問題3

「隣り合った圃場(A圃場、B圃場:但し生産者は別)では、前作で○○病が同程度発生した。翌年、防除効果があると言われるC農薬を生産者A、生産者Bがそれぞれ処理した。その結果、A圃場は発病少であったが、B圃場では昨年同様の発生がみられた。」

そこで、B圃場で防除効果がみられなかった原因について「仮説」を提案してください。

 

 

7.仮説検証アプローチとデータドリブン(駆動型)アプローチ

近年、膨大なデータを使ってコンピュータが出す結果を基に意思決定をする場面が出てきています。そこではAI(人工知能)が大活躍しています。一口にAIと言って第2世代、第3世代などいろいろあるそうですが、最近特に知られているものとしては、囲碁や将棋のソフト(AI)がプロに勝ったことは有名です。そうしたAIの中には、AI開発者も理解できない結果が出てくるケースも多々あるとのことです。

そして、このようにコンピュータが出した結果をそのまま意思決定に使うアプローチは、今回紹介した「観察データ―仮説―検証―結論」のアプローチとは明らかに異なります。そこで、前者を「データ駆動型アプローチ(データドリブン型アプローチ)」、後者を「仮説検証アプローチ」と呼ぶことがあります。どこかで、データ駆動型アプローチをいう単語を見た時には、このことを思い出していただけたらと思います。そして、このような考え方を知っておくことはこれからAIを使う時にも役立つと考えています。なぜなら、今後、ヘソディムでもHeSoDiM-AIアプリを使うことになりますが、様々な場面でAI(人工知能)が出す結果を扱う時に、問題が出てくる可能性があるからです。たとえば、仮説検証を重視するあまりに、「データを基に仮説検証して因果関係を明らかにしていないものは現場で使えない」などというのは必ずしも現実的ではありません。

これと同様の考え方だと思いますが、「ビッグデータが医療を変える」(北風政史著)では、科学を実験科学(第一の科学)、理論科学(第二の科学)、数理科学(第三の科学)、データ中心科学(第四の科学)の4つに分け、第4の科学について、以下のように書いています。

第三・第四の科学から出てきた結論や法則に対して、実験的証明は、必ずしも必要ではない。」、「出てきた荒唐無稽の法則は、P<0.05以下が保証されていれば、大きな問題にはならない。」ということです。なお、ここでP<0.05とは、「出された結果は100回中95回(20回中19回)は当たっている」と考えて良いと思います。

また、「ビッグデータ分析の特徴とは、『因果から相関』」(「ビッグデータと人工知能」(西岡通著)という言い方もあります。

 

共通しているのは、

①仮説を立て検証しようとしてもデータが複雑すぎて検証できないこともある

②しかし、出てきた結果と現象との間に高い相関が認められるなら活用していこう という考え方です。

 

科学的アプローチも時代とともに進化していると考えることができると思います。対象とする問題に応じて「仮説検証」、「AI(人工知能)」をうまく使い、ヘソディムによる土壌病害管理を目指していただけたらと思います。

 

 


 

参考文献(第18話~21話)

1.「ビッグデータが医療を変える」、北風政史著、中外医学社、2018.

2.  野矢茂樹、はたして論理は発想の敵なのか.「デザイン思考の進化」、Harvard Business Review、2014.4

3. 「少年の夢」(梅原猛著)、河出文庫、2016.

4. 「99.9%は仮説 思い込みで判断しないための考え方」(竹内薫著)、光文社新書、2006.

5. 「ビッグデータと人工知能」(西垣通著)、中公新書、2016.

 


 

 

■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る