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第31話・ヘソディムにおける一次予防技術②~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」

前回のヘソディムにおける一次予防技術①(第30話)では、「一次予防技術」の定義を確認するとともに具体的な一次予防技術について整理しました。
それを受けて、今回のお話では一次予防技術の理解を深めるためにヘソディムにおける二次予防技術について簡単に紹介します。

 

Ⅱ.ヘソディムにおける「二次予防技術」

【二次予防の定義】

「二次予防は、不幸にして発生した疾病や傷害を検診等によって早期に発見し、さらに早期に治療や保健指導などの対策を行い、疾病や傷害の重症化を防ぐ対策のことである。」

 

1.疾病や傷害を検診等によって早期に発見

1)【発病初期における発病株の発見と抜き取り処理】
ヘソディムでは、一番重要なこととして「圃場観察」による発病初期の発病株の発見をあげます。発病株を早く見つけ出し、それを処分することが伝染源を断ち、蔓延を防ぐために重要です。多発生してから農薬、他の防除技術など複数の防除法を導入することの大変さはすでに多くの生産者が経験済みです。この技術の重要さを改めて理解して取り組んでほしいと思います。

 

「生産者による圃場観察」は、「データを基に科学的に取り組む」ための基本になりますが、それを支援する技術として、ドローンやロボット等による圃場監視技術が期待されます。同時に、「発病株を迅速に抜き取る技術」と「抜き取った発病株を無毒化する技術」も必要です。

 

2)【発病初期の発病株抜き取り処理後の病原菌密度推定技術】
抜き取った後の土壌中の病原菌密度を推定することが重要です。抜き取った土壌に大量の病原菌がいる場合には、土壌の消毒も必要になります。

 

3)【小~中発生の圃場における蔓延防止技術】
この部分は、従来からカレンダー防除で取り組まれている、様々な防除技術の組み合わせによる対策が該当すると考えます。化学合成農薬を用いた土壌消毒による発病程度の抑制、抵抗性品種の活用、土壌排水性の改善等です。ヘソディムでは、診断により発病ポテンシャルを決定し、そのレベルに応じた防除技術を使うことになります。

 

4)【小~中発生の圃場における蔓延防止を支援するための病原菌密度推定技術】
防除技術の効果を確認するために、土壌中の病原菌密度推定も必要です。

 

5)【基本はヘソディムのレベル1~3で対応】
基本的に、発病程度が中~多の圃場では、ヘソディムマニュアルの考え方に沿って対応することになります。

 

6)【SDGsに沿った一次予防技術】
前述した技術の活用において、環境負荷低減、脱炭素社会の実現を目指した技術開発は必須になります。

 

2.早期に治療や保健指導などの対策を行い、疾病や傷害の重症化を防ぐ

1)【早期の指導】
ヘソディムに慣れていない生産者に対しては、ヘソディム指導員が圃場の診断を行って、その結果に基づき発病ポテンシャルを求め対策を指導することになります。このように指導する仕組みを作ることが重要になります。

 

2)【保険等制度の利用】
発生が多くなった場合は、各種保険を活用して、被害額を少しでも補填することも重要です。その指導を行う指導員、経営コンサルタントとの協働も必要と考えます。

 

3)【迅速で、適格な経営判断ができる生産者の指導】
重症化した圃場はしばしば栽培ができなくなるケースが過去にもありました。この轍を踏まないために計画的に輪作、休耕も考えた栽培計画を立てる必要があります。

 

Ⅲ.一次予防技術、二次予防技術を整理して感じること

1.一次予防技術の特徴
二次予防技術については、基本的にヘソディムマニュアルの中にある、「各種診断技術」と「各種防除技術」で説明できるものが多いと思います。

 

これに対して、一次予防技術は圃場管理、作業工程の改善に関連することが多数ありました。一般に「技術」というと、新技術の開発などに期待したくなりますが、一次予防技術の場合は、「従来の診断技術・対策技術を使って仮説検証を繰り返して取り組む土づくり」や、農器具の洗浄、衣服・長靴の洗浄、水系の管理等「誰でもできる取り組み」がとても重要になることがわかります。

 

2.一次予防を成功させるために何が必要か
「誰でもできる取り組み」が多いと聞くと、「誰でもできるなら簡単に普及するのではないか」と考えたくなりますが、そう簡単にはいかないと思っています。本シリーズで何度か書いたように、「多くの人は今までにないことを行うのが苦手」だからです。ヘソディムでは、これが最大の課題(新しいことへの挑戦が苦手)と考えており、今後生産者とともにこの課題の解決を目指したいと思っています。

 

3.すべての一次予防技術はビジネスチャンス
一次予防では様々な技術や取り組みが必要であることがわかってきました。そして、それらの技術・取り組みが普及するためには、ビジネスとして成立していることが重要だと考えます。コロナでいうなら、マスク、3密を避ける、アクリル板、消毒液、ワクチン、人流抑制、飲食店の規制、換気、毎日のコロナ感染数を知らせるニュース、ニュース内での医師からの助言等による市民への教育、ロックダウン、医療体制の強化、PCR検査数の充実等々です。これらをイメージして、ヘソディムについて具体的に事例を書きます。企業の方には、ぜひビジネスモデルを考えていただけたらと思います。

 

<一次予防技術に関するビジネス案(SDGsに沿ったビジネス)>

・圃場観察により初発を迅速に見つける圃場観察ビジネス

・ドローン・ロボット等による初期発病株発見ビジネス

・発病株迅速抜き取り、無毒化ビジネス

・発病株抜き取り機器、抜き取った発病株の無毒化技術販売ビジネス

・圃場毎の病気が出にくい土づくり指導・受託ビジネス

(圃場毎に仮説検証を繰り返し最適な土を作る)

・土づくりに関連する全ての診断ビジネス

(土壌理化学性、土壌生物性、土壌タイプ、病原菌等)

・汚染農器具・長靴・衣服・手、水系、土壌等からの病原菌検査ビジネス

・汚染農機具・長靴・衣服・手、水系、土壌等の病原菌無毒化ビジネス

(消毒液、大型洗浄機、土中深く消毒する機器、水系消毒器等)

・植物内・土中病原菌検査ジビネス

・土壌微生物性(微生物量、微生物多様性)解析ビジネス

・土壌感染閾値推定ジビネス

・圃場の発病助長性/抑制性診断(DRC診断)ビジネス

・ヘソディム生産者育成ビジネス

(専門的知識、科学的アプローチ、イノベーション、意識改革の重要性)

・ヘソディム指導員育成ビジネス

(専門的知識、科学的アプローチ、イノベーション、意識改革の重要性)

・ヘソディム指導員によるヘソディム指導ビジネス

(生産者に生涯寄り添い、一緒に仮説検証する指導)

・ヘソディム健康診断車で定期的に巡回する圃場健康診断ビジネス

(ヘソディム健康診断車が全国を巡回)

 


 

■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授(2022年退職)

2022年 NPO法人圃場システム推進機構内にHeSoDiM-AI普及推進協議会を設立(代表)

現在に至る