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第18話・仮説検証について(1)~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」

「ヘソディムの話」ではこれまで、マニュアルや個別技術(診断、防除技術など個々の技術のこと)のお話をしてきました。連載をしているうちに、病害・技術の話ばかりが続くと、読者の方も飽きるのではないかと思い、今回は少し話題を変えて「仮説検証」の紹介をすることにしました。

 

これまで、ヘソディムを推進するために、生産者はじめ関係者による「科学的アプローチ」(科学的手法を用いて物事に対応すること)がとても重要であることをお話ししてきました。その理由は、ヘソディムの究極の目的が「圃場毎のマニュアル(圃場マニュアル)」を作成することにあるからです。圃場毎の管理となると、これまでのように県やJAの方が全圃場について指導するは実質不可能です。そのため、生産者自らが圃場毎の管理を主体的に行う必要があり、その際に役立つ方法として「科学的アプローチ」があると考えました。「科学的」に取り組むことの意義は、何よりも合理的に問題を整理し、解決することができることにあります。

このような事情から、科学リテラシーの高い「指導員」・「生産者」の育成を重要項目と位置づけ、勉強会などを開催してきました。その講義の中では、「科学的アプローチ」や「仮説検証」などについて紹介をしています。「仮説検証」という言葉を初めて聞く方もおられるかもしれませんが、慣れれば皆さんも自然に使えるようになると考えています。仮説検証を学ぶことは、これからヘソディムでも活用するAI(人工知能)をうまく使いこなすためにとても役立つと考えています。なお、科学、仮説検証については、多くの書籍が出版されていますのでそれらを参考にしていただけたらと思います。

 


 

1.科学的アプローチとは

科学とは一般に「自然の法則を明らかにする学問」と言われています。そして、その法則を発見するために、科学者(研究者)は「自然を観察し、その結果を基に、仮説を立て、検証し、結論を出す。」という作業を行っています。さらに、研究者が研究会等で発表した際には、試験の再現性、客観性、論理性、などについて専門家による相互批判が行われるようになっています。最近では、科学者でなくても、テレビや日常の会話の中で「科学的な議論が必要だ」、「データ(観察結果)に基づき議論しているか」、「誰がやっても同じことが再現できるのか」、「根拠を示すことなく、想像だけで話していないか」などの意見が出されるようになってきていると思います。そうした背景には、「データなどの根拠を基に議論することが、物事を推進するのに重要である」と理解されてきたからだと思います。

 

● 仮説検証とは

ヘソディムの講演をしていると、講義の内容に関連して多くの質問を受けます。それらの質問を基に仮説検証について考えてみたいと思います。

 

質問1:「畑の一か所だけなぜか○○病が多発する。その原因を知りたい。○○病の講演を聞いていて、××がその原因ではないかと思ったが、どう思うか。」

質問2:「微生物資材Aが○○病ではないが別の病害で防除効果があると知人から聞いた。講演で○○病の発生に土壌微生物が重要な役割を果たすと言っていたので、微生物資材Aを使ってみたいと思うがどうか。微生物資材を投入すると少なくとも土壌微生物が豊富になるのだから無駄ではないと思うがどうか。」

 

内容は違っても、圃場で感じた疑問や、資材等に関して、上記のような会話を聞いたり、経験したことがある方もいるのではないでしょうか。

この質問が出た時、わたしは以下のように答えました(実際はもう少し長くは話していますが省略しています)。

 

質問1への回答「情報が少ないので質問には答えることはできないですが、可能なら、圃場の一部を使って、自分の仮説を検証してみませんか。」

質問2への回答「微生物資材を土壌に入れると微生物が豊富になるとは必ずしも言えません。また、その資材Aが○○病害の発生を抑制するデータもないわけですから、無駄な投資をすることになるかもしれません。畑の一部を使って検証してみませんか。」

 

この回答中に「仮説」、「検証」の単語が入っていますが、それは講演の中で「仮説検証」の説明をしているからでした。この回答にもあるように、わたしが仮説検証を勧める理由は、疑問が生じた時などに自分で確認する姿勢を持つようにしてほしいからです。疑問をそのままにした結果、翌年病害が蔓延することになっては大問題です。また、他人の情報を信じた結果、防除効果が低く、結果的に無駄な投資をすることになるかもしれないからです。研究者のように十分な仮説検証ができなくても、圃場で自分なりに確認することで、無駄を少しでも減らすことができると考えますし、そのような経験を積むことで、研究者と「科学的」に議論をすることができるようになると思っています。

 


 

今回はここまで。次回は、正しい「仮説」の立て方について、注意点などを交えながらご説明します。

 


 

 

■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る