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第33話・20xx年の生産者の会話②~圃場診断システム推進機構・對馬理事長の「ヘソディムの話」

第32話では、ヘソディムの最終目標『ヘソディムで土壌病管理解決』に向けて必要だと考えている「新しいことに挑戦する生産者の育成」についてご紹介しました。

 

第18話から28話で紹介している「科学的アプローチ」や「仮説検証」などは、一度勉強してその用語を使っていくうちに、どなたでもできることだと思っています。

そこで、今後土壌病害管理においてそのような考え方が普及したと仮定して、『20xx年の農村風景』をイメージしてみました。使われているキーワードは、科学的アプローチ、仮説検証、イノベーション等新しいことへの挑戦、AI(人工知能)を主体的に使いこなせる生産者です。(キーワードの内容については、第18話から28話でご紹介しています)

 

※ 10年後、20年後までの当面のヘソディム戦略
現在は、県やJAなどの指導員の方が生産者を指導することで、各地でヘソディムの成功例が出はじめています。将来もこの体制で確実に普及を拡大していくと考えますが、さすがに全国全ての圃場を管理しきれません。今後のヘソディム普及のためにも、『20xx年の生産者』と『生産者を支援する環境』が必要だと捉えています。

 


 

20xx年のある農村におけるヘソディム生産者の会話

【生産者の会話1】
Ⅰ.(科学的アプローチ)データ等に基づき科学的に圃場を管理しているか。

 

〇生産者A氏
「自分の圃場No.3で未知の発病株(初発)を見つけた(生産者自ら観察)。××企業に同定を依頼したところ(迅速に課題解決)、今まで発生したことがなかったA病と同定された(科学的根拠を基に判断)。A病のヘソディムマニュアルがないことがわかったので、指導員B氏に聞いて、過去の情報を基に、ヘソディムマニュアルver1.0を作った(データに基づくマニュアル作成)。これから、まず一次予防(予防の重要性を理解)を徹底する。そのため、圃場観察をしっかりして、発病株を見つけ次第抜き取り、その発病株と周辺土壌を消毒する予定だ。」

 

〇生産者C氏
「気を抜くとA病は蔓延が早いので、今から、A病の診断技術、A病の生態、伝染源、伝染経路、効果のある農薬などを調べておいて、一次予防と二次予防の対策も考えておいた方が良いよ。ついでに、A病に対する圃場の体質診断(発病助長的か抑止的か(DRC診断)を行っておくとさらに良いよ。また、伝染源になりそうな箇所は時々病原菌診断(受託企業に依頼)をした方が良いと思う。」(データ、情報に基づいて一次予防、二次予防の重要性を理解)

 

〇生産者A氏
「A病は蔓延した結果大損害を被っている事例が各地で報告されているので、少し投資してでも一次予防を徹底することが経営的にも良いと考えているよ(長期的視点での経営判断)。」

 

 

【生産者の会話2】
Ⅰ.(仮説検証)疑問が生じたら圃場の一部を使って仮説検証しているか。

 

〇生産者A
「50圃場所有しているけど、圃場No.5と圃場No16だけが農薬Aの効果が見られず減収した。圃場毎のマニュアルを作っており、他の48圃場の内、マニュアルの指示に従い農薬Aを使った圃場はすべて対策がうまくいったのに、なぜかこの2圃場だけ効果がない(観察結果)。そこで原因を明らかにしたいので、いろいろ仮説を考えた(仮説立案)。このミーティングで、皆さんの意見を聞きたい(関係者と情報の共有、相互批判)。観察情報とこれまでの作業情報等を基に、ヘソディム指導員Bさんの助言をいただき、圃場No.5では、仮説1,仮説2、仮説3を考えた。圃場No.16については、排水が悪い圃場なので、仮説1,仮説4,仮説5を考えた。皆さんの意見をお願いします。」

 

〇生産者C
「どの仮説も少ない情報で仮説を立てているので、帰納法というよりはアブダクションによる仮説だと思うから、仮説の段階でどれが妥当かを判断しないほうが良いと思う(仮説に対する姿勢)。このような時は、順番に圃場の一部を使って検証した方がよいと思う。もちろん、圃場のスペースがあって、3つの仮説を一緒に検証できるならいうことはないが。」

 

〇生産者D
「われわれ生産者は、研究者のように反復を多くした実験はできないので、県の指導員Eさんにも助言をいただき、可能なら検討してもらうと良いと思う(情報の共有で科学的議論)。」

 

 


 

今回はここまで。次回も、引き続き20xx年の生産者の会話の例をご紹介します。

 

■執筆者プロフィール
特定非営利活動法人 圃場診断システム推進機構
理事長 對馬 誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授(2022年退職)

2022年 NPO法人圃場システム推進機構内にHeSoDiM-AI普及推進協議会を設立(代表)

現在に至る