- 2024年10月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年8月
- 2023年4月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年8月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
第35話・ヘソディム成功事例の紹介とそこから考える普及の課題①~圃場診断システム推進機構・對馬理事長の「ヘソディムの話」
「ヘソディムの話」第3話~14話では、各県の方々が作成したヘソディムマニュアル (冊子版) の紹介をしました。読者の皆さまも、ヘソディムの考え方や実際の取り組みについてイメージできたのではないでしょうか。その後も、ヘソディムの普及に必要なことも紹介するために、科学的アプローチ・仮説検証(第18話~21話)、HeSoDiMアプリ(商品名:HeSo+、ヘソプラス)(第22話~25話)、ヘソディムの特徴(カレンダー防除との違い、一次予防重視等)(第26話~28話)などの内容を紹介してきました。これらを通じて、ヘソディムが普及するために必要なことについて一定の整理ができたのではないかと思います。
今回からはヘソディムの成功例を紹介し、技術面と普及戦略の視点から成功した理由や条件について考えてみたいと思います。
1.ヘソディム成功例① 三重県JAみえきた等の取り組み
これまでもシンポジウムや勉強会等で紹介していますが、ヘソディムで最初の成功を収めたのは、三重県のJAみえきたで取り組んだものです。
Ⅰ 対象とする出荷組織
JAみえきた西部野菜出荷組合(水田農家複合経営中心)約15戸
JAみえきた水沢野菜出荷部会(茶農家複合経営中心)約16戸
栽培作物:秋冬ハクサイ・秋冬キャベツ・春キャベツ・ナバナ・ブロッコリー等
令和3年度調査面積合計:14.5ha
Ⅱ 過去の取り組み
平成20年度 酸度矯正資材による抑制効果確認
平成24年度~ ヘソディム
生産者:土採取し、JAへ
JA・県:病原菌検査、 農薬(殺菌剤)指導
Ⅲ 四日市地区秋冬野菜産地(根こぶ病ヘソディム対象産地)での取り組み
以下の方法で、診断・評価・対策を実施しています。
(1) 生産者が自分の圃場の土壌をJAに提出する。
(2) JAの取り組み
① ポット検定(三重県版マニュアルのセル苗検定の応用)
生産者が持参した土壌をポットに詰めて、そこで作物を栽培。約1か月後に発病の有無を確認する。
② 土壌理化学性(土壌pHなど)の調査
全農みえ肥料農業センターに依頼
(3) 県の取り組み
生産者が持参した土壌の病原菌密度(DNA診断)を測定する。
(4) JAと県の取り組み
診断結果を基に、生産者に対策を指導する。
① 秋冬野菜栽培講習会で発病リスク・結果を共有する。
② 作型、品種、施肥設計について作付相談対応を行う。
③ 栽培期間中に圃場巡回研修(発病調査)を実施する。
④ 収穫終了後に根こぶ病発生圃場のみ現地調査を行う。
Ⅳ 対策事例
ヘソディム開始時はおとり植物とオラクル粉剤(圃場処理)を用いていたことがあるとのことでした。その後、オラクル粉剤処理を主に指導したとのことですが、圃場によっては抵抗性品種とオラクル粉剤を指導しているケースもあるそうです。
Ⅴ 成果
以上の取り組みの結果、調査対象の73圃場の内、71圃場で発病が抑制されました。驚くべきことに、71圃場については病原菌が検出されない状態にあるとのことでした。そして、病原菌がみられない圃場では、オラクル粉剤の圃場処理はやめて、苗処理のみで対応していました。
根こぶ病は100年前から世界的に問題になっている病害です。そのため、過去に根こぶ病の発生を抑制した事例は多数あると思いますが、病原菌が検出されなくなった事例は世界でも珍しいのではないかと思います。さらに、ここで注目したいのは、病原菌が検出されなくなった圃場については、その後も病原菌の検出などを継続していることです。まさに、一次予防を重視するヘソディムの理想的な対応だと思います。
Ⅵ 留意点
上記の成果に関してですが、すべての圃場の過去の発病状況を把握していないので、過去に各圃場がどのくらい発病していたかは不明とのことです。このため、すべての圃場で病原菌数・発病を減らしたと言い切ることはできないとのことでした。ヒアリングの時は、圃場マップを用いて73圃場のデータを見せていただいたのですが、その後は新規の圃場や数年ぶりに作付けする圃場もあり、対象圃場は毎年若干異なっているとのことでした。
今回はここまで。次回は、その後の三重県内での取り組みを紹介するほか、JAみえきたでヘソディムが成功した理由について考えます。
■執筆者プロフィール
特定非営利活動法人 圃場診断システム推進機構
理事長 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授(2022年退職)
2022年 NPO法人圃場システム推進機構内にHeSoDiM-AI普及推進協議会を設立(代表)
現在に至る