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第14話・ヘソディムマニュアルの紹介(11)~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」

第13話に引き続き、静岡県のネギ黒腐菌核病マニュアルにおける【評価】【対策】をご紹介します。

 

     ● ネギ黒腐菌核病にかかったネギ(静岡県マニュアルより)

 

【評価】

診断項目毎に以下のように評価しています。

 

①「前作の発病程度」

レベル3:前作の発病株率10%以上

レベル2:前作の発病株率1%以上10%未満

レベル1:前作の発病なし

 

②「周辺圃場の発病」

レベル3:自家他圃場+隣接圃場の発病あり

レベル2:自家他圃場または隣接圃場の発病あり

レベル1:自家他圃場と隣接圃場ともに発病なし

 

ここでは、「隣接の圃場で黒腐菌核病が発生した場合に菌核が風雨などで運ばれたり、自家の他圃場で発病があった場合にトラクターのタイヤなどに菌核が付着し、蔓延する可能性があります」という解説があります。

 

③「定植前の土壌pH」

レベル3:pH6.0未満

レベル2:pH6.0~7.0未満

レベル1:pH7.0以上

 

「黒腐菌核病は10℃以下の低温の状態で土壌pHが 7.0以上だと発病が軽減する可能性があります。」とのことです。

 

④「土壌中菌核数」

レベル3:5ヶ所の菌核数の平均が1個以上

レベル2:5ヶ所の菌核数の平均が1個未満

レベル1:菌核の検出なし

 

 

≪ 総合評価 ≫

4つの診断項目をレベル毎に数値を付け、その合計(リスクポイント)で総合評価を行います。

リスクポイント

レベル1:2以下

レベル2:3~5

レベル3:6以上

 

 

【対策】

レベル毎に以下の対策が提案されています。

 

レベル1:①伝染源の除去、②輪作・間作、③土壌pHの矯正

②では、エビイモや赤シソ、キャベツなどユリ科以外の作物を植えて病原菌密度を減らすことが重要とのことです。

 

レベル2:④作型の変更、⑤土寄時の石灰処理、⑥薬剤処理

④では、黒腐菌核病は低温で発生しやすいことから、ネギが低温に遭遇する期間を短くするため、11~12月出荷の作型に変更するように勧めています。⑥では、前作の発病箇所や菌核が確認された箇所を中心にペンチオピラド水和剤(アフェットフロアブル)の灌注処理が良いとのことです。

 

レベル3:⑦土壌消毒、⑧薬剤処理(圃場全面)

⑦では、土壌くん蒸剤による土壌消毒または太陽熱消毒を圃場の全面に実施するようになっています。

レベル3では、レベル2の対策を実施するとともに、⑦、⑧の対策を行うように指導しています。

マニュアルではそれぞれの対策技術の試験結果を基に解説がなされています。

 

 

【静岡県マニュアル活用の現状】

静岡県の伊代住氏からネギ黒腐菌核病マニュアルの活用の現状について情報をいただきましたので、以下に紹介します。

 


 

ヘソディムマニュアルの活用の現状(静岡県伊代住氏からの情報提供)

2016年マニュアルは県HPに掲載し時々内容について問合せがある。

毎年内容を更新し、主産地であるJA遠州中央白葱部会(部会員150名)の土壌分析結果報告会・栽培講習会(4月に5支所で開催。コロナ禍前は各15~25名参加。)で公開し、主にリニューアルしている対策技術の説明を行なっているが、HPへの掲載はまだ行なっていない。
本年度の農水省プロジェクト終了時点で、県単課題で取り組んでいる他の重要土壌病害との同時防除技術と併せて、更新する予定である。
診断→対策提案を直接行なっているのは6生産者(所内試験含む)である。それ以外の方々については、JAの防除モデルへの開発技術の反映というかたちで、間接的に対策提案する体をとっているが、マニュアルを活用しているという意識はまだ薄いかと思う。
対策技術における農薬使用については、レベル3で提案する被覆土壌消毒が実際には労力的問題等で実施されないのと、ここ2年でパレード20フロアブルを活用した防除体系が確立され、従来のレベル3の軽めの部分までカバーするようになったことから、レベル3の基準を変えるか、パレードの苗処理で対応できるところまでをレベル2、他剤との体系処理が必要なところまでをレベル3、被覆土壌消毒と組み合わせる必要があるところをレベル4とすることも検討している。(静岡県伊代住氏私信)

 


 

個別技術、すなわち診断技術や防除技術の普及でも難しいのですから、このシリーズの最初に書いたように、提案当初はへソディム(新システム)の普及には相当時間がかかるだろうと考えていました。そう考えると、今回のように、すでに6名の生産者が「診断→対策」を行っているというのは、画期的な成果だと思います。さらに、2016年マニュアルが提案した防除手段の一つである「被覆土壌消毒」を見直し、パレード20フロアブルによる防除体系に移行していることや、それに関連してレベルの内容についても変更を加えようとしている点も、まさに、へソディムの考え方に一致しています。データの蓄積、新技術の出現などに応じて、常に最適なマニュアルの作成を実践しているという意味では、へソディムマニュアルの活用における一つの成功例と考えることができると考えます。

 

 

参考文献(第13~14話)

1. ヘソディムマニュアル、2013年、農業環境技術研究所発行

2. ヘソディムマニュアル、2016年、農業環境技術研究所発行

3. 窪田昌春 (2012) 野菜に病原性を示すSclerotium属菌. 微生物遺伝資源利用マニュアル (32), 1-9.

4. 對馬誠也.ミニ特集:新たな土壌診断技術.総論―eDNAプロジェクトの成果とPCR-DGGE法による土壌診断―.植物防疫65(8).455-460.2011.

 

 


 

 

■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る