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第12話・ヘソディムマニュアルの紹介(9)~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」
前回の第11話に引き続き、群馬県のバーティシリウム萎凋病マニュアルをご紹介します。
【対策】
対策についてもユニークです。以下の2段階になっています。
第1段階:圃場の発病レベルを確認して、次年度の対策が必要かどうか判断します。
レベル1 発病程度:なし~軽度、 次年度の対策:現在の栽培を継続、発病調査を継続
レベル2 発病程度:中程度、 次年度の対策:対策が必要
レベル3 発病程度:重度、 次年度の対策:対策が不可欠
第1段階で次年度の対策が「必要」または「不可欠」となった場合に対策を行います。
第2段階:下記の表を基に、レベルに応じた対策を行います。
レベル2では、エンバク野生種、作型の変更、抵抗性品種(中~強)、殺線虫剤の使用になっており、レベル3では、エンバク野生種、作型の変更、抵抗性品種(強)、土壌くん蒸剤を使うことになっています。
土壌くん蒸剤の使用やエンバクの使用も県や地域の事情によって異なると思いますので、それぞれの地域、圃場で最適解を見つけていただけたらと思います。
対策については、以下のような説明がなされています。一部を紹介します。
≪エンバク野生種の使用≫
マニュアルでは、ニューオーツ、ヘイオーツなどの作付で、バーティシリウム萎凋病の発病を助長するキタネグサレセンチュウが減少することが知られている、として推奨しています。
≪作型の変更≫
発病適温が20~25℃のため、作型を変更して、作付時期をずらすことでリスクを下げることができるとのことです。
≪圃場からの土壌の異動防止≫
土中の病原菌を移動させないことが重要なことから、トラクターや車両による汚染土壌の移動を回避することが必要としています。
≪抵抗性品種≫
以下の表のように抵抗性指数で示されています。
この抵抗性指数については以下の説明があります。長年にわたる試験の結果から得たものであることがわかります。
*抵抗性指数の説明(マニュアルより)
平成18年~26年にJA嬬恋村と群馬県農業技術センター高冷地野菜研究センターが群馬県嬬恋村の現地圃場で共同実施した、キャベツバーティシリウム萎凋病抵抗性の検定試験によって得られた品種間のリスク比から算出されています。
※数値が高い方が高い抵抗性を有しています。
【普及状況】
前述の群馬県池田氏によると、本マニュアルについては、当初200部冊子にして嬬恋村・長野原町に配布したところ、さらに要望があったので200部追加したとのことでした。
また、このようなへソディムポスターもJA嬬恋村の本所およびすべての支所に貼っているとのことです。
「前述したように元々、関係者の頭の中にある防除法に関する知識やノウハウをマニュアルという形にしたものなので、より体系的になったかもしれない。効果的な抵抗性品種も多く育成され、現在嬬恋村では本病の以前のような大発生はみられない。3000haを超えるモノカルチャーの産地で発生した病害が土壌消毒なしでほぼ撲滅できたのは、世界的にみても例がないのではないかと思う」(池田氏 私信)との情報をいただきました。
【群馬県の新たな情報】
≪嬬恋村でキャベツバーティシリウム萎凋病の圃場発病ポテンシャルマップを作製≫
群馬県嬬恋村で1997年~2013年の間に年2,3回行われた発病調査の結果を基に、嬬恋村を500mx500mのグリッドに分けて、モデルによる検定を行い、グリッド毎の発病ポテンシャルを表示することに成功しました。
研究の方法は、最初に発病の実態を説明できるモデルを作るために、説明変数として道路密度(グリッド内の道路の全長)、標高、位置特異的湿り度指数(topographic wetness index :TWI)を選抜し、それらの説明変数を使って発病確率(occurrence probability:0~1の間で表示)を求めました。
得られた発病確率を基に、へソディムでも行っているように、グリッドを発病ポテンシャル(disease potential)で分けました。
ここでは図1のように、2段階(橙色と白色)に分けています。
解析の結果、発病が認められたグリッド(緑色の点)は高い発病ポテンシャル(橙色の四角)を当然示していますが、それだけでなく、発病していないグリッドでも発病ポテンシャルの高い所が見られたことがわかりました。そして、これらの未発病のグリッドでは、病原菌が侵入すると発病が多くなる可能性があると考えられます。
以上から、発病ポテンシャルマップは、モニタリングや防除指導(とくに予防)に役立つと考えられます。
へソディムは圃場毎に診断・対策を行うことを目指していますが、その一方で、圃場毎に作成したマニュアルをその圃場からどの範囲まで拡張しても使えるかを示すことも重要です。本成果はそうした意思決定に役立つのではないかと考えます。
※注
なお、図1は科学雑誌PeerJに掲載されたものを使いました。通常、論文の図の掲載に当たっては出版元の許可が必要ですが、この雑誌は、クリエイティブコモンズのCC-BY4.0に準拠しているので、引用元さえ示せば使用は自由になっています。
参考文献(第10~12話)
1. ヘソディムマニュアル、2013年、農業環境技術研究所発行
2. ヘソディムマニュアル、2016年、農業環境技術研究所発行
3. 池田健太郎・大河原一晶 ・三國和彦 ・小泉丈晴 ・酒井 宏・對馬誠也 ・吉田重信.メタアナリシスによるキャベツバーティシリウム萎凋病の抵抗性品種の評価.関東東山病害虫研究会報 第 63 集 p126(2016)
4. K. Ikeda and T. Osawa (2020) Predicting disease occurrence of cabbage Verticillium wilt in monoculture using species distribution modeling. PeerJ, DOI 10.7717/peerj.10290
5. 對馬誠也.ミニ特集:新たな土壌診断技術.総論―eDNAプロジェクトの成果とPCR-DGGE法による土壌診断―.植物防疫65(8).455-460.2011.
6. 群馬県農業技術センター.キャベツバーティシリウム萎凋病のへソディム(ポスター).2015.
■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る