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第9話・ヘソディムマニュアルの紹介(6)
〜東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」
第7話・第8話に引き続き、アブラナ科野菜根こぶ病以外の病害マニュアルとして、長野県のレタス根腐病マニュアルを紹介します。
長野県のレタス根腐病マニュアル
病原菌は糸状菌Fusarium oxysporum f. sp. lactucaeです。この病原菌については、病原性型(レース)の存在が明らかになっています。病原性型は品種に対する寄生性の違いで分かれるものです。したがって、圃場や市場の状況によっては、抵抗性品種はとても有効な対策になることがあります。以下、長野県のマニュアルを紹介します。
最初に課題が書かれています。それによると、従来の対策では土壌燻蒸剤の利用と耕種的防除(抵抗性品種など)を行ってきたが、課題として土壌病害は事前の対処なしに発病した後では有効な防除方法がないこと、事前に発病危険度を予測する方法がないことが挙げられ、生産安定のためには作付前に予防的な防除を徹底して行うことが必要となっているとしています。
【診断】
診断は、(1)前作の発病程度、(2)土壌の発病しやすさ、(3)栽培方法・作業内容の簡単な記録を行うことになっています。
診断の特徴は(2)土壌の発病しやすさの基準です。長野県では、土壌消毒直前と土壌消毒1カ月後の土壌DNAを用いた土壌微生物多様性の変化と発病程度との関係を解析しました。その結果、土壌糸状菌の多様性の回復が遅い圃場では病害の発生が少ない傾向が見られました。こうした結果をもとに、以下のような長野県独特の基準を設けています。土壌DNA解析による土壌微生物多様性(※1)を診断の指標にした例は極めて少なく、ヘソディムでは初めての活用例になりました。
【発生リスク1】土壌の糸状菌多様度が速やかに回復する土壌
【発生リスク2】土壌の糸状菌多様度がやや回復し難い土壌
【発生リスク3】土壌の糸状菌多様度がかなり回復し難い土壌
※1 長野県では微生物の多様性評価法として一般に生態学で使われている「種の数」で評価するリッチネス指数と、「種の数と種毎の割合」を合わせて評価する2つの手法(シャノン・ウイナー指数、シンプソン指数)を使って調べています。なお、用いた微生物解析手法としては、PCR―DGGE法という土壌DNAから直接微生物の多様性を調べる手法を用いています。この手法は、PCR法(土壌中の解析したい微生物集団に特異的なDNA領域を増やす技術)とDGGE法(同じ長さのDNA断片を塩基配列の違いで分けることができる濃度勾配電気泳動法)を合わせたものです。ここでは、糸状菌に特定的は18SリボゾームRNA遺伝子の一部を増やしています。なお、少し専門的になりますが、DNAを用いた解析では厳密に「種」を同定できませんので、予め「解析する単位」を定義して多様性解析を行うことになっています(對馬、2011参照)。
【評価】
調査項目(1)前作の発病程度と(2)土壌の発病しやすさから総合評価を行っています。
【発生リスク3】
・調査項目(1)、(2)がともに発生リスク3
・調査項目(1)、(2)のどちらかが発生リスク3で、 調査項目(3)栽培方法・作業内容の簡単な記録から多発が懸念される
【発生リスク2】
・調査項目(1)、(2)がともに発生リスク2
・調査項目(1)、(2)のどちらかが発生リスク2で、 調査項目3から中発生が懸念される
【発生リスク1】
・調査項目(1)、(2)がともに発生リスク1
「事前に発生している 『病原性型(レース)』を把握しておく必要があります」としています。
【対策】
発生リスク毎に詳しい記載があります。その一部を紹介します。
【発生リスク1】の場合
ここでは個別技術ではなく、3年間の栽培体系モデルを紹介しています(下記の図参照)。
長野県の特徴としては、輪作も含めた耕種的防除や土づくりに注目した栽培体系を目指しているところです。加えて注釈として「あくまでも一例」であること、「年毎に対策を立案する方が好ましい」としています。ヘソディムの考え方が徹底されていると思います。
個別技術としては、「緑肥」、「異科」(ネギまたはブロッコリー・キャベツなどのアブラナ科植物)による病原菌を減らす手法や、抵抗性品種を中心とした栽培体系を推奨しています。
【発生リスク2】の場合
リスク2でも栽培体系を提案していますが、発生リスク1に比べ、慣行栽培が少なくなっています。
【発生リスク3】の場合
リスク3も同様に栽培体系を提案していますが、「緑肥」、「異科」がさらに増えています。さらに、3年目の冬作時には「土壌健康診断(再)」となっています。徹底的な対策を行うよう指導しています。
≪レース検定法≫
本マニュアルでは、レタス根腐病菌の分離法、レース検定法についての紹介があります。分類レース検定法としては、(1)判別品種を利用したレース検定方法、(2)培養法によるレース2の判別方法、(3)遺伝子診断法(PCR)による迅速レース識別法があります。
参考文献(第7~9話)
1.ヘソディムマニュアル、2013年、農業環境技術研究所発行
2.ヘソディムマニュアル、2016年、農業環境技術研究所発行
3.矢野和孝・岡田知之・景山幸二・森田泰彰.土壌中のショウガ根茎腐敗病菌(Pythium myriotylum)検出のための選択培地による直接検出法、補足法およびPCR法の比較.四国植防47.21-28.2013.
4.對馬誠也.ミニ特集:新たな土壌診断技術.総論―eDNAプロジェクトの成果とPCR-DGGE法による土壌診断―.植物防疫65(8).455-460.2011.
5.藤永真史・小木曽秀紀.レタス根腐病菌のレース分化の実態解明とその防除への応用.植物防疫. 59(9). 380-384. 2005.
6.平成25年度 普及に移す農業技術(長野県野菜花き試験場環境部)
■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る