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第8話・ヘソディムマニュアルの紹介(5)
〜東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」
前回に引き続き、アブラナ科野菜根こぶ病以外の病害マニュアルとして、高知県のショウガ根茎腐敗病マニュアルを紹介します。
高知県のショウガ根茎腐敗病マニュアル
Pythium myriotylumによって起こる病害です。この病原菌は、以前は「菌界」に属していましたが、現在は「原生生物界」に属しています。卵菌類の仲間です。発生すると著しい減収をもたらすうえ、一度発生すると対策が難しいことから、診断・対策が重要な病害です。わたし自身も、高知県で生産者や関係者に何度かヘソディムを紹介する機会を与えていただき講演をしたことがありますが、本病の生産現場での深刻さと生産者の意識の高さを実感したことを思い出します。
マニュアルでは、種子伝染・土壌伝染についてわかりやすく解説しています(図1)。病気の生態をしっかり理解することがヘソディムを実践するための第一歩です。本病において、よく理解することが重要です。
▲図1:病害の紹介
【診断】
診断の特徴は、診断項目が(1)前年の発病程度(2)土壌中の菌密度の2点と少ないことです。加えて、(2)の調査を補足法(※)という生物検定で行う点もこのマニュアルの特徴です。
この理由は、県の担当者がPCRで病原菌の診断を行ったところ、PCRで陰性であっても発病が多い圃場があったことによります。
※補足法
図2は補足法の一部を示したものです。トウモロコシ種子およびオオムギ種子を用いて、「ベイトの準備」、「ベイトの培養」、「調査」の順に進めることにより、病原菌の有無を調べます。増殖した菌が病原菌であるかどうかについては熟練がいるようです。識別が難しい場合はPCRで確認すると良いですが、現在はLAMP法も検討しているとのことです。なお、補足法による病原菌の検出は現在アグロ カネショウ株式会社で受託事業を行っています。ヘソディム推進に必要な診断受託体制が確実に進んでいます。
▲図2:補足法
【評価】
評価基準は以下のとおりです。
【対策】
レベル毎に対策を講じます(表1)。
防除の難しさから、レベル1でも化学合成農薬を使用していること、対策にかかるコストまで掲載されているのが本マニュアルの特徴です。レベルが低くなるほど、コストも少なくなることがわかります。
このように、ヘソディムでは発病ポテンシャルのレベルに応じた対策、すなわち圃場毎の最適解を提案することにより、従来に比べ低コストの土壌病害管理が実現できると考えることができます。
▲表1:レベルに応じた対策
今回はここまで。次回は、長野県のレタス根腐病マニュアルについて紹介します。
■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る