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第21話・メロンつる枯病 前編
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

前回、リンゴの腐爛(フラン)病の話をしました。この病気の英語名はキャンカー(canker)でした。時には「がん・癌」を意味するので、英語圏の人ならビクッとすることでしょう。作物の病気でキャンカーなら、メロンが有名です。メロンが日本に上陸したとき、蔓枯病(ツルガレ・ビョウ)もひっそりとこの地に侵入しました。農家の人は昔から、この病気をキャンカーと呼んで、メロン栽培の最大のネックとしてきました。薬剤防除の手を抜くと、数年後には必ず発生するため、メロンにとっては宿命の病害です。さて、メロンのキャンカーとは-。

 


 

《 地際部の茎の病徴 》

 

この病気の主な発生部位は、地際部の茎。つまり主茎(親づる)です。この部分が、はじめ油浸状になり、しだいに表面が灰褐~灰白色となって凹み、亀裂を生じます。更に、茶褐色の粘質物(ヤニ)を生じ、しばらくすると表面に黒色の小粒点が密生してきます。この小黒点は大部分が病原菌の柄子殻で、中には無数の分生子(柄胞子)が詰まっており、診断のポイントとなります。後期になると、この小黒点の中に病原菌の完全世代である子嚢殻が混じっていることがあります。分生子は無性的、つまりメスのカビだけで生まれ、子嚢胞子はオスとメスのカビの交合で生まれます(写真1)。

 

▲写真1 地際部(つまり茎の基部)の症状。黒い粒が柄子殻

 


 

《 子づる・葉などの症状 》

 

 子づる、孫づるに発生することもあります(写真2)。病斑より上部は萎れ、枯れ込みます。特に地際部が侵されると、株全体が激しく萎凋します。
 葉に生じる病斑は、ほぼ円形の淡褐色~灰褐色で、その斑点の周囲はくっきりと縁取りされています(写真3、4)。この病斑は、バクテリアの病斑のハローと、とてもよく似ています(第9話参照)。また、葉縁から広がり、葉脈の形に沿って扇形やくさび形となることもあります。病斑部は乾燥すると破れてしまいます。葉の付け根(葉柄)が発病すると、葉は枯れてしまいます。葉や葉柄にも小黒点ができます。
 果実では水浸状の病斑を生じ、その中央は褐変枯死し星状に裂け、内部はコルク状に乾固します。メシベ柱頭から病原菌が侵入すると、果実の内部が腐ります。

 

▲写真2 子づる上の症状

 

▲写真3 葉には、斑点が現れる。蔓枯病という名前からは想像できません

 

▲写真4 葉の下面から光をあてた透視画像。ハローが鮮明です

 

伝染経路や防除法については後編で解説します。

 


 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです