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第20話・リンゴ腐爛病
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

何とも恐ろしげな名前の病気です。リンゴの苗木が日本に輸入された時に、この病気もこっそり侵入したようです。英語名はcanker(=キャンカー:潰瘍、腐爛の意)です。
リンゴはいわずと知れた樹木の一種です。木の幹や枝は人間の胴体や手足を連想させます。その胴体にあたる部分は主幹、太い枝の部分が主枝、小枝は枝梢です。そして体の表面を覆っている皮が樹皮。腐爛病はこの樹皮を、激しく侵すのですが……。

 


 

《 病徴 》

 

この病気は、主幹、主枝部および枝梢部の樹皮に発生し、それぞれ胴枯れ型、枝枯れ型の症状があります。春先の主幹や主枝の病斑は、樹皮が膨れ、褐色を呈しており、爪で剥ぎ取れるほど軟らかく、独特の芳香を放ちます(写真1)。病斑はその後も進展し、その表面には黒色、粟粒状の小さな突起が生じ、サメ肌状となります。この突起は病原菌の柄子殻(ヘイシカク:後述)の先端部分(開口部)で、ここから胞子を外部に噴出します。盛夏期になると病斑は一時進展を停止し、病斑組織は退色乾燥し、健全部より陥没し、病斑と健全部の境界には亀裂を生じます(写真2)。秋には再び病斑が拡大し、病斑部は若干大きくなります。これは柄子殻開口部をとり巻くように、小さな「子のう殻」開口部が突出するためです(写真3)。枝梢部の病斑は、剪定した痕や果実を収穫した後の傷口を中心に生じます。症状は主幹、主枝部と同じです。

 

▲写真1 春にリンゴの樹皮上に生じた病斑

▲写真2 夏に生じた病斑

▲写真3 柄子殻より噴出される黄色の柄子角

 


 

《 伝染経路 》

 

伝染源は柄胞子と子のう胞子です。柄胞子は無性生殖つまりメスのみから生まれた胞子であり、子のう胞子は有性生殖で生まれた胞子です。柄胞子は、降雨やみぞれなどで樹皮が濡れると、柄子殻から橙~黄色糸状の塊まり(胞子角)となって押し出されます。胞子角は雨水に速やかに溶け、個々の胞子は樹皮の表面を流れたり、雨のしぶきとともに分散します。柄胞子の分散はほぼ年中続きます。一方、子のう胞子は降雨の際に子のう殻から放出され、空中飛散して、9月頃から次年の7月まで分散します。分散された両胞子は剪定痕、収穫後の果実の付着部分、凍寒害部、日焼け部などから感染し、病斑を形成します。感染・発病が最も起こりやすいのは、リンゴの休眠期とその前後です。

 


 

《 発生環境 》

 

凍害や台風による樹の損傷が生じると、発病が助長されます。「高接ぎ栽培」への切り替えによる品種の一挙更新、樹木の老齢化や不適切な肥培管理が重なって、リンゴの樹に元気がなくなると、腐爛病が発生する誘因となります。

 


 

《 防除法 》

 

化学肥料の過用、果実の付けすぎ、強度の剪定などをやめて、樹勢を強健にしましょう。被害部は早期に切除あるいは削り取り、処分しましょう。剪定した後の切り口や病斑を削り取った後の傷口は殺菌剤の入った塗布剤を塗りましょう。休眠期に薬剤を散布しましょう。酷寒期に剪定・整枝などで切り口をつけると、病原菌の侵入門戸となるので、酷寒期の剪定・整枝はやめましょう。

 


 

今回のキーワード:柄胞子、胞子角、子のう(嚢=ノウ)胞子

 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです
※写真掲載:北海道病害虫防除提要(第6版)・田村修氏