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第12話・タマネギの紅色根腐病
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

肉食獣のライオンと草食動物のシマウマの話から始めます。ライオンが生きていくためには、シマウマを食べなくてはなりません。それが自然界の「掟」なのです。病原菌と作物の関係も同じ。病原菌(カビ)は、作物を食べなくては生きていけないのです。作物にしがみついて栄養をいただくので、病原菌は「パラサイト(parasite=寄生者)と呼ばれることがあります。そして、パラサイトに食べられた作物の姿―――それが病徴(第1話参照)なのです。さて―――。

 


 

《 病徴 》 

タマネギの紅色根腐病(こうしょくねぐされびょう)には3つの病徴があります。その第一は、その名の通り根がピンク色になり、腐敗することです。健全なタマネギに比べて、根の本数が少なく一本一本が貧弱なことにも注目してください。英名ではpink root rot(紅色・根・腐る)といいます。

第二は、根の生育が抑制されることによって、地上部の茎葉が枯れ込むことです。特に葉の先端が白っぽくなるのが特徴です。そして最後に、タマネギの鱗茎(球:第5話参照)が小さくなることです(写真1、2、3、4)。

写真1 左:発病株、右:健全株

 

写真2 葉の先端が白くなっている

 

地上部の茎葉が枯れ込んでいる

 

左 1個体:健全株、右 4個体:罹病株

 


 

《 実験で確かめる-病原性-》

この病気で鱗茎が大きくなれないことは、最近の実験で確かめられたことです。写真5を見てください。左側が病原菌を含んでいない土壌(健全土)、右側が病原菌を混ぜた土壌(病土)です。こういう比較によって、病原菌の能力(病原性)を確かめます。病土の方は、根が貧弱で球も小さいですね。健全なものに比べると重さが3分の1くらいしかありません。つまり病原性があったということになります。病原性を確かめることは、病徴を実験で再現させることでもあるのです(写真6、7)。

写真5 健全土と病土での生育の比較

 

写真6 収穫時の鱗茎:上・健全土、下・病土

 

写真7 収穫時の根の症状:左・健全土、右・病土


 

《 病原菌と寄主範囲 》

病原菌はSetophoma terrestris(セトフォーマ・テレストリス)です。土中にすんでいるカビです(写真8)。ここでもう一度ライオンの話に戻ります。ライオンはシマウマ以外の動物も獲物にします。この病原菌もタマネギ以外の植物を獲物にします。その植物のことを寄主(きしゅ)または宿主(しゅくしゅ)といいます。獲物の種類が多い病原菌は、寄主範囲が広いということになります。ちなみにSetophoma terrestris(セトフォーマ・テレストリス)の寄主範囲は、タマネギのほかに長ネギ、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、メロン、ジャガイモなどと多彩です。

写真8 培養中の病原菌 上段:シャーレの表面、下段:シャーレの裏側


 

今回のキーワード:パラサイト、病原性、寄主、寄主範囲

 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです
※特別の記載がない限り、掲載写真は著者提供もしくは「北海道病害虫防除提要(第6版)」からの借用によるものです