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第47話・ヘソディム成功事例の紹介 vol.3(山形県編)~圃場診断システム推進機構・對馬理事長の「ヘソディムの話」

「ヘソディムの話」第42話と43話では、長野県と静岡県の成功事例を紹介しました。また新たな成功例を教えていただきましたので紹介します。
今回は山形県の事例です。山形県の場合は、今までの成功例と異なる点があります。それは、これまでの紹介例は、農水省のヘソディム関連プロジェクトに参画していた県の方が中心となって地域のJA、生産者の協力により成功したものですが、今回はプロジェクトに参加していないにも関わらず担当者のご尽力により、ヘソディム的な対策で成功していることです。
担当者の菅原氏は、対策に当たってはヘソディムを意識して、圃場毎に診断評価を行い、レベルに応じた対策を講じたとのことです。プロジェクトに参加していなくてもヘソディム的対策ができるということを知っていただけたらと思います。

 

 

ヘソディム成功事例  – 山形県の事例 –
(情報提供:山形県最上総合支庁農業技術普及課 菅原 敬氏)
(参考文献:トルコギキョウ立枯病対策マニュアル、他)

 

1)対象作物・病害:トルコギキョウ立枯病
2)対象範囲:最上地域、 42戸、 6ha(約140圃場)
3)取り組みの内容:

a.発生状況
菅原氏ら(北日本病虫研報 73:48–54(2022))によると、「立枯れ症状の原因が不明だったため、最上地域および庄内地域の栽培圃場で調査した結果,立枯病は生育不良等が発生した圃場の85%で確認され広く蔓延していることが明らかになった」とのことです。

b.取り組みに当たって
「当初からヘソディムは意識していたので、当てはめようとしたものの、どの程度の菌密度で発病するか、立枯病に対する品種差などの知見が皆無で、防除手段も確実なのは薬剤による土壌消毒しかなく、被害程度によって点数を付けたり、手段を選ぶことは出来ませんでした。なので、全圃場を調査して発病程度や防除手法の結果から、どの防除法が適するのか、さらに、防除前後の菌密度と開花期の発病率を調査して、その防除手法を勧める「根拠」をゼロから作り上げました。」とのことです。

情報がない状態で、ゼロからヘソディムを取り組むことの大変さがわかりますので、同じ状況の生産者、指導者の方にはとても参考になると思います。

 

c.具体的取り組み:(図1,図2)
試行錯誤の末、マニュアルを作成し、それに準じて診断、対策を行っています。
診断項目としては、前作での発病調査、病原菌密度調査などがあり、前作での発病率が5%以上の圃場は必ず、それ以下でもできるだけ土壌消毒することとしています。病徴の記載が詳細なので、ヘソディムが重視する前作発病度の調査(大まかに3段階でよい)は少し慣れると誰でもできるのではないかと思われました病原菌密度と発病の関係を詳細に調べている点も特徴です。その結果、必ずしも病原菌密度だけでは説明できない圃場があることも示しています。これはヘソディムでも明らかなことですが、具体的にデータで示していることは、対策を考える上でとても貴重な情報だと思いました。

● 図1 マニュアルの作成

 

また「一年ではなくならない『防除と評価』のサイクルを回す」として、一度発病した圃場は1回の土壌消毒で完全に防ぐのは無理であること、その対策や考え方を紹介している点は特徴的です。
次に、防除法としては、土壌の深さによっては土壌消毒の効果がないことをデータを基に紹介して、現時点における最適解を提案している点も特徴です。

●図2 1年で終わらないサイクルを回す

 

このように、圃場毎に、診断・評価・対策を行っている点はまさにヘソディムそのものといえます。
対策を長続きさせるには、農家からは納得(理解)の上で動いてもらわなければなりませんが、土壌病害を理解してもらうのは容易なことではありません。花き栽培担当でもある菅原さんは、菌密度のデータを感覚的に分かるように色別に示す、50以上の圃場で140品種の立枯病に対する強弱を調べて一覧にする、さらに普段の講習では上手くいかなかった例も含めて説明するなど、手触り感のある指導を目指したとのことです。
また、植物病理の担当者が防除指導をすると、どうしても病原菌のことに話が集中しがちですが、どんなデータがあると農家を動かせるかを考えながら臨むことが栽培の現場では大切と感じたそうです。まさに今までにない取り組みを生産者にお願いすることが多いヘソディムで重要なことだと思います。

 

4)成果
菅原氏によると、数年間取り組んだ結果、赴任時に比べ、管内の被害を1/3まで減少させたとのことです。
反収の回復に伴い、販売額も上がっています。金額は表示できないので、対比で示します(図3).さらに、菅原氏は農家の声も集めていますので紹介します。

 

『生産者の声』(報告者:菅原敬、『もがみの農業』特に成果のあがった普及活動より)
「トルコギキョウの土壌病害対策は最重要課題となっています。これまでも対応はしていましたが、思うように被害が減らない施設もあり解決の難しさを感じていました。普及課からは土の中の病原菌の数がどうなっているかなど、分かりやすく教えて頂き、会員の防除レベルも上がったと思います。今年の出荷数量は前年比100%を上回り、数字上でも生産性が改善したことが証明されました。実践的で分かりやすい指導が結果につながったものと感謝しております。」
JA新庄市花卉生産協議会 会長 三原 誠さん


●図3 発病株率別施設の割合、aあたり出荷本数の推移

 


 

 

■執筆者プロフィール
特定非営利活動法人 圃場診断システム推進機構
理事長 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授(2022年退職)

2022年 NPO法人圃場システム推進機構内にHeSoDiM-AI普及推進協議会を設立(代表)

現在に至る