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第37話・ヘソディム成功事例の紹介とそこから考える普及の課題③~圃場診断システム推進機構・對馬理事長の「ヘソディムの話」

第35話36話に引き続き、今回はヘソディム成功例の2つ目として群馬県の事例をご紹介します。

 


 

2. ヘソディム成功例キャベツバーティシリウム病の取り組み

(情報提供者:群馬県池田健太郎氏、第11話12話でマニュアル紹介)

 

Ⅰ 対象地域、栽培面積:単一作物の連作で土壌病害克服

群馬県嬬恋村 約3000ha

 

Ⅱ 県・JAの取り組み:シンプル、使ってもらうマニュアルを目指す

診断項目は「圃場の外観」と「収穫時の結球部の褐変」で、実にシンプルです。これで発病ポテンシャルをレベル1~3に分けています。
対策では、
・レベル1:現在の栽培継続、発病調査継続
・レベル2:対策が必要
・レベル3:対策が不可欠 としています。
具体的には、レベル1ではエンバク栽培、レベル2ではエンバク栽培、作型の変更(抵抗性品種中~強の使用)、殺線虫剤使用、レベル3ではエンバク栽培、作型の変更(抵抗性品種中~強の使用)、土壌くん蒸剤使用となっています。

診断項目は一見単純ですが、第11話~12話でも紹介したとおり、担当者によると『使ってもらうマニュアルの作成を目指した』ために、できるだけ診断項目を省力化したとのことでした。ただし、それができたのは『膨大な現地圃場での試験データや12年に及ぶ全村での発病調査の結果があった』からとのことです。そして、これらの結果から、前作の品種と発病株の割合さえわかれば、次作で被害を出すか出さないかのおおよその判断ができることが分かったとのことです。群馬県マニュアルは、生産者やJAの指導員、県の普及指導員の経験などに基づいたHeSoDIM的な防除指導を形にしたものであるとのことでした(情報提供:群馬県池田氏)。

 

Ⅲ 成果:

3000haを超えるモノカルチャー(単作)の産地で発生した病害が土壌消毒なしでほぼ撲滅できたとのことです。これは「世界的にみても例がないのではないか」と担当者が言っています。

 

Ⅳ 成功した理由

これらの取り組みについて、わたしなりに成功した理由を考えてみました。

 

(1) 目的の明確化

『使ってもらえるマニュアル』作りを徹底していることがあります。そのため、長年にわたるデータの蓄積、そのデータに基づく、シンプルで最適な診断・対策を効率的に作ることができたのだと思います。

 

(2) 県・JA・生産者の熱意

県・JA・生産者の『何としても防除しようとする』とする熱意が成功の原動力になっていると感じます。このような熱意が長年にわたるデータの蓄積やその活用、マニュアルの実行に結び付ていると思いました。

 

(3) シンプルなマニュアルを支える科学的アプローチ

一見、単純な診断、対策でしたが、その背景に『徹底した科学的アプローチで取り組んでいること』を忘れてはいけないと思います。言い換えると、『科学的アプローチを徹底すると、診断、対策をよりシンプルで、低コスト化できる」ことを示唆していると考えます。こうした取り組みこそヘソディムの理想です。

 


 

今回はここまで。次回は、第35~36話でご紹介した三重県の事例と、今回ご紹介した群馬県の事例から、ヘソディムが成功する理由について考えます。

 

■執筆者プロフィール
特定非営利活動法人 圃場診断システム推進機構
理事長 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授(2022年退職)

2022年 NPO法人圃場システム推進機構内にHeSoDiM-AI普及推進協議会を設立(代表)

現在に至る