- 2024年12月
- 2024年11月
- 2024年10月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年8月
- 2023年4月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年8月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
第42話・ヘソディム成功事例の紹介 vol.2(長野県編)~圃場診断システム推進機構・對馬理事長の「ヘソディムの話」
本シリーズでは第3話~14話で各県の方々が作成したヘソディムマニュアル(冊子版)を紹介し、それらを用いた三重県、群馬県の成功事例を第35話~第38話で紹介しました。
今回は成功事例第2弾の前編として、長野県の事例を紹介したいと思います。
ヘソディム成功事例 (情報提供:長野県野菜花き試験場 藤永真史氏)
Ⅰ.新規就農者の取り組み
1)対象作物・病害:ブロッコリー根こぶ病
2)対象範囲:新規就農者(16haのコメ生産者) 1戸
生産者の話では、ブロッコリーを1ha栽培したが、2018年の売上は600,000円とのことだった。農業経営指標によると、ブロッコリーの粗収益は10aあたり528,120円なので、粗収益が1/10しかなかったことになることから、地元のJA技術員と普及員とで技術支援を始めることにした。
3)取り組みの内容
水田転換畑の健康診断を行った。検査項目は以下のとおりである。
・一般化学性診断(窒素、リン、カリ、pH、EC、塩基飽和度など)
・土壌排水性検査(インテグレート法)
・根こぶ病菌密度検査(当時は簡易検査法ができなかったのでリアルタイムPCR法)
すべて出そろったところで、JA会議室で診断結果と処方箋を生産者に提示するとともに、ちょうどHesodim研究の課題に取り組んでいたので、この圃場において試験場による現地実証も行わせていただいた(注)。
注)對馬解説:これまでの成功例の紹介では、指導者(県、JA等)が中心になって、対象とする生産者の圃場でヘソディムを実施して収益を上げてきましたが、ここでは、ヘソディムが有効かどうかを試験場の課題としても検証しながら、同時に、生産者の圃場の収益増を目指したということになります。
当初、この現地実証では根こぶ病だけが問題と聞いていたが、もともと水稲栽培が盛んな地域だったが故に、黒斑細菌病、黒腐病、花蕾腐敗病、黒すす病、コナガ、ヨトウムシなどの一般病害虫に対する防除知識も乏しく、問題化していることが判った。
4)取り組みの成果
そのため、根こぶ病以外の病害虫も含めて、トータルで3か年(ちょうどHesodim研究の最終年まで)かけ、総合的な栽培技術を習得したこの生産者から「2021年は、春作だけで200万円儲かった」との話を聞くことが出来た(生産者情報なので事実は不明)。
5)ヘソディムの普及状況
今では、地域ごとに以下のとおり運用されていると考えている。
・一般化学性分析(県内JA経由での分析:ドクター大地)
・土壌排水性検査(自分の畑の水のはけ具合)
・根こぶ病菌密度検査(チンゲンサイを用いたポット検定:地元普及センターやJAで独自に実施)
6)藤永氏からの提言
リアルタイムPCRとかLAMP法とか、外部発注している県もあるし、様々な技術の活用は重要であるが、手法は健康診断の手段でしかない。
大事なことは、そのことを十分理解した上で、《生産現場の状況に応じて実行する仕組みを作ること》だと考える。これがヘソディム普及の一番の肝と考えている。
Ⅱ.長野県全体での取り組み
1)対象作物・病害:ブロッコリー根こぶ病
2)対象範囲:県内のブロッコリー栽培地域(約1,000ha)
3)取り組みの内容と成果
a:圃場の健康診断に基づくブロッコリー根こぶ病の防除スキーム(ver1.0)の実践
令和元年~3年にかけて現地の63 圃場を対象に、本スキーム(図1)に従い当該圃場で導入することが望ましい防除対策を策定した。その後、実際に生産者が実践した防除対策と圃場での発病程度の関係性について調査し、有効性を検証した。その結果、8圃場ではスイートコーン、ネギや水稲等が作付けされたことから検証対象から除外した。残りの55 圃場ではブロッコリーが作付けされ、そのうち31 圃場がリスク判定に基づいた推奨防除を行い、そのうち26 圃場(83.9%)が収量減にならなかった。
一方、本スキームを参考にせず従来の防除を行った圃場では、24 圃場のうち11圃場(45.8%)が収量減に至った。
b:防除スキーム(ver1.0)実践結果の統計的な解析
得られた実践結果を「本スキーム(ver1.0)を参考にした圃場としなかった圃場、それぞれの出荷に問題となった圃場、ならなかった圃場の割合は等しい」という帰無仮説の下で、フィッシャーの正確確立検定を行った。その結果、本スキームを参考にした圃場でブロッコリーの出荷に問題となった圃場は31 圃場中の5圃場(16.1%)であった。一方、本スキームを参考にしなかった圃場(24 圃場)では、出荷に問題となった圃場(11 圃場)が45.8%で、問題とならなかった圃場(13圃場)は54.2%であった。このように、本スキームを参考にして適切な防除を実践することは、根こぶ病によるブロッコリーの収量減に至るリスク(危険性)を低く抑えられ、根こぶ病による減収を回避する手段として有効であった。
参考文献:長野県令和3年度(2021 年度) 普及に移す農業技術
次回は、後編として静岡県の成功例をご紹介します。
■執筆者プロフィール
特定非営利活動法人 圃場診断システム推進機構
理事長 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授(2022年退職)
2022年 NPO法人圃場システム推進機構内にHeSoDiM-AI普及推進協議会を設立(代表)
現在に至る