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第17話・べと病と疫病
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話
「かび」という言葉で連想するのは、物を腐らせる、もしくは腐ったものについている、などでないでしょうか。たいていのカビはその性質を強く持っています。こういう菌は試験管で培養できますが、生きた植物体上でしか生存できないカビもいます。このようなカビを「活物寄生(カツブツキセイ)菌」といいます。今回はその病気の一つを紹介します。
《 野菜のべと病 》
〈共通する症状〉
子葉(双葉)が開いた頃から発生し始めます。子葉では水浸状の斑点が次第に拡大して淡褐色となり、葉の裏に灰色のカビを生じます。本葉では、まず淡黄色の小さな病斑ができ、これが徐々に広がり、葉脈に囲まれた黄褐色~褐色の角形の病斑となります。病勢が進むと葉全体が黄褐色となり、乾燥すると固くなり、破れやすくなり、葉縁から巻き上がります。葉の裏側に生じる暗灰色のビロード状のカビは病原菌の胞子(分生子[ブンセイシ])です。卵胞子をつくり、越冬します。キュウリ、メロン、カボチャ、スイカ、ハクサイ、ダイコン、タマネギなど多くの野菜がこの病気に罹ります。
〈伝染経路〉
葉の上につくられた分生子の別名は遊走子嚢(ユウソウシノウ、のう=袋)。これが風により周囲に飛散します。葉に達した分生子は水滴があればすぐに遊走子を出し、気孔から侵入して、作物を発病させます(写真1、2、3、4、5)。べと病にそっくりな病気が疫病です。こちらの病原菌は試験管培養ができます。「条件的活物寄生菌」といいます。
写真1 キュウリべと病:キュウリの栽培でこの防除は不可欠です
写真2 メロンべと病:メロンでは必ず発生します
写真3 ハクサイべと病:商品価値が著しく低下します
写真4(左) べと病菌の遊走子嚢(レモン形)と卵胞子:タマネギ葉にめり込んでいます
写真5(右) べと病菌の卵胞子
《 ジャガイモ・カボチャなどの疫病 》
〈症状〉
なんとも恐ろしげな病名ですが、植物の方ではPhytophthora(フィトフトーラ)というカビが起こす病気を「疫病」といいます。ジャガイモ疫病が有名です。病気の出はじめはジャガイモの花が咲く頃です。葉の表面に水浸状に褐点ができ、拡大してほぼ円形の暗緑色の病斑となります。葉の裏側には白い粉状のカビがびっしり生えています。これは病原菌の胞子(=分生子)です。食用部分の「塊茎(イモ)」が腐る症状を「塊茎腐敗」といいます。
〈伝染経路〉
病斑上にできるこの大量の分生子こそまん延の主役です。分生子はその子どもの遊走子を生んで、葉の中に侵入し発病させます。一部の遊走子は雨水と一緒に土中に染み込み、塊茎の芽の部分から侵入して「塊茎腐敗」を起こします。また、卵胞子をつくり、越冬します。
〈発生環境〉
水を好むのがこの病原菌の特徴です。低温と高い湿度は分生子をたくさんつくらせ、葉への遊走子の侵入を助けます。ナス、カボチャ、リンゴ、イチゴ、アスパラガスなど、たくさんの作物が疫病に罹ります(写真6、7、8)。
写真6 アスパラガス疫病:最近北海道で発見されました
写真7 疫病菌の卵胞子:アスパラガスの茎(成茎:セイケイ)の表面につくられます
写真8 疫病病菌の遊走子嚢:ジャガイモの葉の裏側
《 マニアック情報 》
疫病・べと病の共通性格は、遊走子嚢と卵胞子。大きな違いはべと病菌は試験管内で培養できないことです。活物寄生でしたね。
今回のキーワード:卵胞子、遊走子嚢、活物寄生
■執筆者プロフィール
児玉不二雄 Fujio Kodama
農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。
45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。
※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです
※写真掲載:一部、(一社)北海道植物防疫協会、西脇由恵氏、著者