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第16話・テンサイの褐斑病
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話
テンサイは、甜菜のカタカナ書きです。サトウダイコン(砂糖大根)が正式名称とされたこともあります。栽培農家は英名のビート(sugar beet)を使います。褐斑病(カッパンビョウ)はテンサイの最重要病害であり、この病害の防除なくしてテンサイの安定生産は望めません。
《 病徴 》
褐斑病はカビによって起こる病気です。主に葉に発生します。この病気が出始めるのは7月下旬頃からで、下の方の葉に赤紫色の小さな斑点が生じます。これが後に大きくなり、直径2~4mmの円形病斑となります(写真1)。病斑の中心部は薄い褐色、周囲は褐色~赤紫色となります(写真2)。湿度が高くなると、病斑の上に病原菌であるカビがたくさんの胞子を作ります。この胞子は分生子(ぶんせいし)と呼ばれますが、密集して灰色がかった白い粉状となります。症状の進行したテンサイでは、葉の付け根の葉柄(ヨウヘイ)にも、細長い褐色~黒色の病斑ができます。褐斑病は8月中~下旬になると急速に拡がります(写真3、4)。症状の激しいものでは、1枚の葉に数百個の病斑が生じて葉の全面が褐色となり、ついには枯れ込んでしまいます。この病気によって成長した葉の大部分がなくなってしまうと、新しい葉が再生します(写真5)。そうするとせっかく根の中に蓄えていた糖分が低くなり、収量も減ってしまいます。
写真1 初期病斑
写真2(左) 初期病斑の拡大写真。直径3mm程度です
写真3(右) 病斑が葉の表面に点在
写真4(左) 拡大した病斑。葉の裏側
写真5(右) 褐斑病の末期症状。葉が枯れ込んでいます
《 伝染経路 》
伝染源は、罹病した種子や茎葉の中で越冬した分生子や子座(シザ:分生子の塊と考えてよいでしょう)です。病原菌はこの状態で1年以上生存します。茎葉で越冬した病原菌は20℃以上になると新しい分生子をつくり、これが飛散して葉に感染します。種子に感染している菌は、種子の発芽・生長とともにテンサイの体内に侵入します。
《 発生環境 》
病原菌は5~37℃の範囲内で生育します。伝染のポイントになる分生子は24~25℃で盛んにつくられます。日中に飛散して、葉の気孔(キコウ)から侵入します。気孔とは植物が呼吸する鼻です。感染してから発病までの潜伏期間は、30℃では7~8日、25℃では9~10日、15℃では19~21日です。また、若い葉では潜伏期間が長く、病斑数も少なくなります。連作畑や、前年にテンサイを栽培した隣の畑、あるいは被害葉をすき込んだ畑では、早くから病気が発生して被害も大きくなります。
《 防除法 》
健全種子を使いましょう。3~4年、輪作しましょう。被害茎葉を畑にすき込んではいけません。飼料用ビートに隣接して作付けしてはいけません。薬剤散布の開始時期は、発病株率で50%を目安としましょう。
今回のキーワード:サトウダイコン、初期病斑、潜伏期間、気孔害
■執筆者プロフィール
児玉不二雄 Fujio Kodama
農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。
45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。
※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです
※写真掲載:一部、(一社)北海道植物防疫協会原図