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第24話・コムギのふ枯病
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

イネ(稲)の話から始めます。毎日食べるご飯の米粒(こめつぶ)は白米ですね。中には玄米ご飯がお好みの方もいらっしゃるでしょうが。この米粒、元々はイネの穂に実った種子で、籾殻(もみがら)に包まれていました。
では、本題のコムギに戻ります。コムギもイネの仲間なので、やはり穂に種子が実ります。しかし、こちらの方は麦粒(むぎつぶ)を包む殻のことを「ふ」※といいます。漢字制限のため、この「ふ」と言う文字は漢字で表記できません。そこで、ふ枯病とひらがなで表記しているのです。

 


 

《 病 徴 》

写真1、2をご覧いただきましょう。コムギの穂についている「ふ」が、黒色~褐色になっています。病名の由来です。「ふ」以外にも発病部分があります。葉、茎などです(写真3、4)。発病する部位によって若干症状が異なりますが、病斑上に微細な小黒点(柄子殻〈へいしかく〉)を生じるのが共通の特徴です。病斑は長楕円形~不整形、淡褐色、大型の斑紋ですが、古くなると周縁が濃褐色に、内部は灰褐色~灰白色の病斑となります。

 


 

《 発生状況 》

北海道でこの病気の発生が注目されるようになったのは1965年前後です。特定の品種での発生が目立ったため、この品種特有の病気ではないかと考えられていましたが、ここ数年来、各地で発生しています。過去に、ふ枯病が発生した年次の気象状況をみると、春~夏のコムギの生育期は曇りがちで、雨が多い時に多発する傾向があるようです。

▲写真1 コムギの穂(正しくは「ふ」)の病斑(この段階では黒粒点は見えません)

 

▲写真2 「ふ」の上に黒粒点(柄子殻)が観察されます

▲写真3 コムギの茎や葉に生じた病斑

 

▲写真4 葉の病斑の拡大図

 


 

《 病原菌と伝染経路 》

病斑上の小さな黒い粒々は、病原菌の柄子殻とよばれるもので、頑丈な殻の中には胞子ばびっしりと詰まっています(写真5、6)。この柄子殻は、病気に罹った麦桿(ばっかん)(麦わら)や種子(=正しくは「ふ」!)にしがみつき、感染の機会を待つのです。この胞子が病気を蔓延させて行きます。つまり病原菌の感染源です。しかし、詳しい生態は解明されていません。病原菌は、Phaeosphaeria nodorum (フェオスフェリア・ノドラム) というカビ(糸状菌)です。

 



《 防除法 》

被害麦桿を圃場周辺に放置しないことが大切です。最近、防除薬剤の試験研究が進められており、数年後には効果の高い殺菌剤が確保されそうです。

▲写真5 柄子殻の拡大

 

▲写真6 柄子殻から胞子が流失するところ

 


 

今回のキーワード:ふ、柄子殻

 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土」に連載しているコラムを加筆・修正したものです

※写真掲載:角野晶大氏原図(2021,道総研)

※「ふ」は、漢字で「稃」と表記します