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第13話・ニンジン・ジャガイモの軟腐病
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

ペクチンという言葉をご存じでしょうか。ジャムに含まれています。あの独特の「粘り」の正体はペクチンなのです。
さて、植物の方では病原体の8割以上がカビです。カビより一回り小さい微生物がバクテリア(細菌)です。カビは100分の1ミリメートルのレベル、細菌は1000分の1ミリメートルのレベルです(第10話参照)。バクテリアが起こす病気をひとまとめにして細菌病といいます。
細菌病の代表が「軟腐(なんぷ)病」です。英語名がsoft rotですから、英名から翻訳された病名に違いありません。softは「軟らか」、rotは「腐る、腐敗」を意味しますから。

 


 

《 病原細菌と病徴 》

病原細菌はPectobacterum carotovorum(ペクトバクテリウム・ カロトボーラム)。何やら長い名前ですが、「ペクト」はペクチンを、「バクテリウム」はバクテリアを連想します。そして「カロト」はキャロットつまりニンジンです。この病原細菌は、ニンジンで初めて発見されました。もしかしたらこのバクテリアは、植物の細胞と細胞を接着(=貼り付け)しているペクチンに何か影響を与えているのでしょうか。
病徴(病気の様子)がその疑問に答えてくれます。ニンジンの根が腐っています。細胞をつなぐ壁(細胞壁[さいぼうへき])に含まれるペクチンが分解されて、細胞が壊れ、ベトベトになっています(写真1)。次に、実験写真をご覧く
ださい。輪切りのニンジン病原細菌を一滴落としておくと、一夜にして症状が進み、中心部から溶けていきます(写真2)。この細菌の持つペクチン分解能力はとても強いのです。

写真1 ニンジンの根:真ん中あたりが腐っている。細胞が崩壊している

 

写真2 上段:病原細菌がついていない、下段:病原細菌を一滴落としてある。左:ハクサイ、中央:ニンジン、右:ダイコン


 

《 寄主範囲 》

ジャガイモ(写真3、4、5)、タマネギ、メロン、ブロッコリーなど40種類以上の作物や花などがこのバクテリアに侵されます。どういうわけかイネと麦は、軟腐病にかかりません。

 

写真3 ジャガイモの軟腐病:茎の症状。黒くなっている

 

写真4 ジャガイモ:罹病した茎の断面

 

写真5 ジャガイモ:罹病塊茎。右側が変色して腐敗している

 


 

《 伝染経路 》

病原細菌は、裸のままだったり、病気にかかって死んでしまった作物の根や塊茎(かいけい)(第4話参照)にしがみついたりして、ひっそりと土の中にすんでいます。好みの作物、つまりニンジンやジャガイモが植えられると、地下部分から直接に、あるいは地表面から雨水と一緒に作物の体に侵入して感染するのです。

 


 

今回のキーワード:ペクチン、バクテリア(細菌)、病原細菌

 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです
※写真掲載:一部、(一社)北海道植物防疫協会原図