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第6話・アスパラガスの斑点病
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

私たち人間は、食用としてダイコンの根を食べます。リンゴは果実、そしてアスパラガスの食用部分は若茎(写真1)です。ワカグキと読みます。「グ」は、鼻濁音できれいに発音しましょう。
春に草木が芽吹くと葉を広げます。アスパラガスでは若茎が顔を出して成長が始まるのです。アスパラガスは、一度植えつけると、毎年若茎を収穫することができる永年生の作物です。でも「斑点病」にかかると若茎の収量がどんどん減ります。なぜでしょうか?

 

写真1 若茎。先端が開いてできる葉は「擬葉」、茎についている三角形が「真葉」


 

《 病徴 》
すでに若茎に病斑ができています(写真2)。食用の難を逃れた若茎は葉を広げてゆきます。太い茎や葉が繁り背丈が2メートル以上にもなります。その葉や茎などに円形、楕円~紡錘形、大きさ2~6×3~12ミリメートルの病斑を生じます(写真3、4)。
病斑が拡大して茎、枝、葉(擬葉)を取り囲むと、その上方の部分は枯れてしまいます。発病の著しい畑では、秋の早い時期に全面が黄色くなって見え、カラマツの秋の姿に似ているので「落葉病(らくようびょう)」と呼ばれたこともあります(写真5)。

 

写真2 擬葉、病斑がある

写真3 完成した病斑。茎を枯らす

 

写真4 水浸状病斑(第1話参照)

 

写真5 落葉症状。葉が散るとカラマツのよう


 

《 若茎の収量が減るのはなぜ? 》
さて、若茎が葉を広げ成長すると地下部に養分を蓄えます。鱗芽群(りんがぐん)です(写真6)。これが大きいほど、翌年の収量が豊かです。斑点病にかかると十分な養分が蓄えられないのです。

 

写真6 地下にある鱗芽群。若茎はここから芽を出す。E-1だけが健全株でその他は病株


 

《 病気をまん延させる分生子 》
今回の病原菌もカビですが、ちょっとマニアックです。2つの姿をもっています。つまり、母親の遺伝子しかもたない「分生子」と(写真7)、父母の遺伝子をもつ「子のう胞子」です。
普通、発病は茎葉の繁茂する8月中旬頃から増大しますが、これは分生子の飛散量もこの頃から飛躍的に増えるからです。飛散は、特に、降雨のあった2~3日後に増大します。
分生子は病斑の上で、繰り返しつくられます。そして最後には枯れてしまったアスパラガスの茎葉に潜り込み、翌年の伝染源になります。

 

写真7 「分生子」。大きさは0.02mmぐらい


 

《 子のう胞子の役割 》
雪解けの地面にある枯れ茎の上に黒いものがついています。この中に子のう胞子が入っています(写真8、9)。「偽子殻(ぎしのうかく)」です。直径が0.4ミリメートルほどで、外敵から子のう胞子を保護しています。この胞子も重要な伝染源で、最初に若茎に感染すると考えられています。子のう胞子は、雌・雄の交配によって生まれるので、このカビの種族の維持に役立っているのです。こちらを完全世代、分生子で増殖する方を不完全世代といいます。植物や動物は完全世代しかもっていませんから、不完全世代はカビの「特権」です。

 

写真8 子のう胞子。8個が1袋、下に2個隠れている

 

写真9 偽子のう殻:枯れ茎にめり込んでいる。「子のう胞子」がつまっている


 

今回のキーワード:若茎、子のう胞子、不完全世代

 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄

Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです

※特別の記載がない限り、掲載写真は著者提供もしくは「北海道病害虫防除提要(第6版)」からの借用によるものです