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第10話・ハローの仲間たち
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

第9話の続きです。病斑の周りにできる鮮やかなリング(=ハロー)の話です。haloと書きます。英和辞書には【絵画:聖像の上方に描かれる光輪】とあります。なるほどですね。

さて、植物の病気を起こす病原体はおおまかにいって、カビ、バクテリア(細菌)、ウイルスです。作物の病斑にハローを見つけたら、「これはバクテリアの病気らしい」と見当をつけることにしましょう。その典型的な症状をお見せすることにします。

 


 

《 ①インゲンマメのかさ枯病 》

前回お話しした「かさ枯病」の写真です(写真1、2)。鮮やかなリング(=ハロー)を堪能してください。このリングはなにやら金環食と似ておりませんか。このような症状に出合うと病理研究者の9割以上は、心中深く感動しているはずです。

 

〈病原細菌〉
Pseudomonas savastanoi pv. phaseolicola(シュードモナス・サバスタノイ・パソバール・ファゼオリコーラ)

〈伝染経路〉
病原細菌は種子の表面に付着したり、内部に侵入したりして生存しています。これを種子伝染といいます。これが植物の体内を通り、発病した姿がハローです。種子からの発病が第一次伝染です。ここで病原細菌は爆発的に増加し、雨と風に乗って健全な他のインゲンマメに伝染していきます。これが第二次伝染です。感染種子が10粒ほどで、40アールの畑に病気がまん延するといわれています。無病種子を用いることが基本中の基本です。

写真1 インゲンマメのかさ枯病

 

写真2 インゲンマメのかさ枯病:拡大病斑


 

《 ②アズキの褐斑細菌病 》

〈病原細菌〉

Pseudomonas syringae pv. syringae(シュードモナス・シリンゲ・パソバール・シリンゲ)

〈伝染経路〉

種子伝染します。中耕除草などの圃場管理作業により第二次伝染もしますが、インゲンマメのかさ枯病のように強い感染力はもっていないようです(写真3、4)。

写真3 アズキの褐斑細菌病

 

写真4 アズキの褐斑細菌病:拡大病斑


 

《 ③ダイズの斑点細菌病 》

〈病原細菌〉

Pseudomonas syringae pv. glycinea(シュードモナス・シリンゲ・パソバール・グリシネ)

〈伝染経路〉

やはり種子伝染します。第二次伝染により上位葉にまん延します。はじめ微小な水浸状病斑を生じ、次第に拡大、融合して大きな病斑となります。病斑の色調ははじめ暗緑色で、後に黒褐色となります。病斑外周は黄色の暈かさ(=ハロー)を生じます(写真5、6、7)。

写真5 ダイズの斑点細菌病

 

写真6 ダイズの斑点細菌病:拡大病斑

 

写真7 ダイズの斑点細菌病:葉の裏面


 

《 カビとバクテリアについて 》

植物では病原体の8割以上がカビです。カビより一回り小さい微生物かバクテリア(細菌)です。カビは100分の1ミリメートルのレベル、細菌は1000分の1ミリメートルのレベルです。カビが病原体の時は「病原菌」といい、バクテリアの時は「病原細菌」と区別するのが普通です。純粋培養した両者の姿をご覧ください(写真8、9)。

写真8 培養中の細菌

 

写真9 培養中のカビ(糸状菌)


 

今回のキーワード:ハロー、病原細菌、種子伝染

 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです
※写真掲載:一部、(一社)北海道植物防疫協会原図