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第23話・HeSoDiM-AIの紹介(2)~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」
第22話に引き続き、現在開発中のAI(人工知能)を活用した「HeSoDiM-AIアプリ」(以下、AIアプリ)の紹介をしたいと思います。
④ 診断項目の入力と発病ポテンシャルの表示
● 判別器診断項目入力画面(左)と、予測器診断項目入力画面(右)
左図は「判別器」の診断項目で、右図は「予測器」の診断項目です。予測器は、従来のマニュアルのように、診断・評価・対策を表示します。
ただし、このAI アプリと従来のマニュアルには決定的な違いがあります。それは、AIアプリは、県の担当者が収集した圃場試験、栽培条件等のデータの解析結果を基に、AIと人間(後半で説明します)が診断項目を指定していることです。したがって、従来のマニュアルは使っていません。
例えば、ネギ黒腐菌核病の場合は、静岡県と群馬県が取り組んでいますが、それぞれの情報を基に、二つの予測器が作られています。また、これら二つを合体した予測器も作られています。前者を地域版、後者を広域版としました。
同様に、ブロッコリー根こぶ病の場合は、香川県と長野県の情報を基にした地域版が二つ作られており、さらにそれらを合体した広域版が一つ作られています。したがって、複数の地域版がある病害については一つの広域版があることになります。逆に、一つの地域版しかない病害では広域版はありません。このように予測器が複数あるため、それらの中からどれが対象圃場に適しているかを判別するために判別器が作られました。なお、判別器の診断項目は、土壌群、土性、pH、EC、陽イオン交換容量、塩基飽和度などとなっています。
以上のことから、ユーザーが診断したい病害名を入力すると、複数の予測器がある病害の場合、最初に判別器の画面が現れます。それに診断項目を入力すると圃場に適した予測器の画面が表示されます。ユーザーはそれを使って圃場の診断・対策を行うことになります。
● 診断結果の表示画面(左)と診断項目(右)
予測器による診断結果を示しています。左図では、画面中央に「発病ポテンシャル」がレベル2と表示されています。それと同時に、画面上に登録圃場が「黄色」の枠になっていることがわかります。そして、右図は、レベル2になった診断の内容が表示されています。
なお、レベル2の表示の下に「AI自信度」があり、星が1~3まで表示されるようになっています。これは、AIによる診断結果がどのくらい信頼できるかを星の数で示したものです。星の数が多いほど信頼度が大きいと考えてよいと思います。
ここでさっそくAIの特徴が出てきました。AIが出す結果の信頼度はデータの量と質に依存しているということです。この「AIの特徴」については後半で勉強していきたいと思います。
⑤ 対策技術の提示 ― レベル・生産者のニーズに応じた対策リスト ―
発病ポテンシャルのレベルが表示されると、次は対策になります。対策の欄をクリックするとレベルに対応した対策リストが表示されます。ただ、ここでもへソディムならではの仕組みがあります。それは、対策リストは一つではなく、生産者のニーズに応じた対策リストが表示されるということです。
前述しましたが、このプロジェクトで、全国の生産者、JA関係者にヒアリングを行った結果、生産者によって対策に対する考え方がかなり異なることがわかりました。たとえば、「これまでどおり収穫できるなら、これ以上に低コストにすることは考えていない。新しい技術の導入は考えていない。」という生産者がいる一方で、「少しでも低コスト化して収益を上げたい。必要なら新しい技術も導入したい。」という生産者もいました。また、「子供の代まで続けたいので、長期的に対策を考えたい。必要なら輪作も行う。」という生産者もいらっしゃいました。また、「有機農業」や「原因不明の病害の対策が最優先だ」という生産者もいました。とくに、最後の生産者のニーズは多様なことから、特殊なケースとして考えることにしました。以上のことから、一種類の対策リストだけでは多くのユーザーの満足度を上げることはできないと考え、最終的に生産者を下記の4つのケースに分けて提示することにしました。ユーザーは自分のニーズに合った対策リストを選択することができます。
● 対策のための防除技術の表示(満足度に基づく4つのケースを表示)
ケース1:通常の収量確保を優先
ケース2:増収増益を優先
ケース3:農産物の高付加価値化を優先
ケース4:長期的・持続的な栽培を優先
⑥ 病害の写真表示とコメント欄
AIアプリから、デバイスのカメラで撮影ができます。撮影された写真は、圃場に紐づけされ、クラウドのサーバにアップされます。デバイス内に保存されている写真をアップすることできます。写真は圃場に紐づきます。写真が持つ位置情報によりマッピングされます。
⑦ AIアプリ利用のイメージ
AIアプリの利用方法について紹介してきました。下図はこのAIアプリを実際に生産現場で利用している風景を示したものです。生産者がデータを入れ、その画面を見ながら指導員が一緒になって対策を考えている様子です。AIアプリ自体は単にHeSoDiM-AI(図ではクラウド上にある)と情報のやり取りをして、ユーザーに視覚化した情報を提供していることになります。
しかし、ヘソディム及びHeSoDiM-AIアプリが普及するために一番重要なことは、技術ができただけではダメで、生産者及び関係者が一定水準のAIリテラシー、科学リテラシーをもってAIを活用することが重要であることは前述したとおりです。生産者集団が、常に使っているAIの欠点と長所を理解し、それを「科学的」に仮説検証等を行いながら、土壌病害管理を行う姿をイメージしています。もちろん、そのためには、開発者側もAIの長所と欠点をわかりやすく説明することが重要と考えます。
● アプリ利用のイメージ
今回はここまで。次回も引き続き「HeSoDiM-AIアプリ」についてご紹介いたします。
■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る