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第15話・個別技術の効果的活用法について(1)~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」

はじめに

「ヘソディムの話」ではこれまで、各県のヘソディムマニュアルについて紹介してきました。

対象病害によって診断・評価・対策の内容は異なりますが、マニュアルの特徴や共通の考え方などについて理解していただけたのではないかと思います。その一方で、全体像を示すことを重視したため、どうしても個々の技術について詳細に紹介することはできませんでした。

今回は、これまでマニュアルの中に出てきた個別技術のいくつかについて、その特徴や使い方を少し詳しく紹介したいと思います。第15話では、ヘソディムに関連する講習会などで、特に質問が多く出てきた技術に関連して「おとり植物の使い方」について考えていきたいと思います。

 

おとり植物の使い方 

土壌中のアブラナ科野菜根こぶ病菌(以下、根こぶ病菌)の密度を下げる植物として、おとり植物があります。よく知られているものとしては葉ダイコン、エン麦等があります。

 

1)おとり植物による根こぶ病菌量低減のしくみ

土壌中の休眠胞子は耐久体として10年以上土中で生存していることが報告されていますが、ある種の植物の根が近くに伸びてくると、休眠胞子は発芽して遊走子(第一次遊走子)を放出します。放出された遊走子は根の根毛に感染し、根毛内で第二次遊走子のうを形成します。アブラナ科野菜に感染した場合は、根毛で形成された遊走子のうから遊走子(第二次遊走子)が飛び出し、根の皮層に感染した後、根の内部で変形体を形成し、それが減数分裂などを経て根こぶを形成すると言われています。

一方、根こぶ病菌はアブラナ科野菜以外には根こぶを作らないと言われていますが、根毛感染までは非アブラナ科植物でも生じます。そして、おとり植物の活用では、この根毛感染した病原菌がターゲットになります。

その原理は、根毛感染した植物体をそのまま土壌にすき込むと土壌中に放出された遊走子は死滅してしまうことを活用して、おとり植物栽培~土壌中の休眠胞子発芽~根毛感染~感染植物の土壌鋤き込み~感染した根こぶ病菌死滅~結果的に土壌中の病原菌密度減少という経過をたどり、土壌中の根こぶ病菌(休眠胞子)数を減らすというものです。

このことから、現場で活用する際の注意点としては、根こぶを形成しない非アブラナ科植物の場合は問題ないのですが、アブラナ科野菜を用いる場合には、根こぶができないか、根こぶができにくい植物を使うことが重要になります。たとえば葉ダイコンはアブラナ科ですが、前述の性質を持っているため、おとり植物としてすでに商品化されています。

 

2)おとり植物の根こぶ病菌密度低減効果

表1は、わたしが所属していた東北農業試験場総合研究第3チームで行った各種植物・資材の根こぶ病菌密度低減効果を示したものです。

これによると、葉ダイコンCR-1は50-90%とおとり植物の中では最も高い効果を示しました(他、Murakamiら、2000参照)。

他のおとり植物では、30%~60%でした。ちなみに、表1にあるように、石灰資材、有機質資材もキチン(比較的高い効果)を除いておとり植物ほどの効果はないものの密度低減効果が認められました。

 

 

一般的に、「発病を50%減らした」というと効果は大きいように思えますが、病原菌密度を50%減らすといっても、その意義が大なのか小なのか、ピンとこない方が多いのではないかと思います。

次回は、DRC(Dose-Response-curve:菌密度-発病度曲線)という観点より、おとり植物による根こぶ病菌密度低減効果について考えてみたいと思います。

 


 

 

■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る