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第16話・個別技術の効果的活用法について(2)~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」
第15話に引き続き、おとり植物による根こぶ病菌密度低減効果について、今回はDRC(Dose-Response-curve:菌密度-発病度曲線)という観点から考えてみたいと思います。
おとり植物の圃場での発病抑制効果
前回、おとり植物による根こぶ病菌の減少率について解説しましたが、今回はこの点をDRC(Dose-Response-curve:菌密度-発病度曲線)を用いて説明することにしました。「DRC診断」については第3話で紹介していますが、ここでも簡単に確認したいと思います。
わたしがDRC診断を提案した理由は、圃場での発病には多数の要因が関係しており、それらの要因を全て集めて発病を推定するのは難しいことから、大まかでもよいので圃場の発病しやすさを知る方法が必要だと考えたからでした。
DRC診断では、「圃場から回収した病原菌」の懸濁液を、100/g(土)、101/g(土)、102/g(土)、103/g(土)、104/g(土)、105/g(土)、106/g(土)になるように「圃場から回収した土壌」に接種した後、ポットに詰め、土壌の物理性を少しでも壊さないように底面潅水で約1か月栽培して発病度を評価します。
3年間の圃場試験の結果、この方法により多数の発病要因が関係している圃場の「発病しやすさ」(発病助長的か、抑止的かなど)をある程度把握できるとして提案しました(Tsushimaら,2010)。
注意すべきこととしては、DRC診断は対象圃場の「土、品種、病原菌」で推定するものですので、「品種」が変わった場合は診断結果も変わることです。
最近、病原菌密度推定がへソディムの重要な診断項目の一つになっていますが、へソディムでは、病原菌密度だけでなく「圃場の発病抑止性」(DRC診断結果)を考慮した評価や対策が重要であることをお話ししています。それは、仮に105/g(土)の病原菌がいても「発病抑止的」な場合は、それほど心配することはないし、逆に「発病助長的」な圃場の場合は、たとえ102/g(土)でもしっかり対策をする必要があるからです。
ここでDRC診断を使用するのはDRC診断の本来の目的とは異なりますが、今回のように防除技術の評価を考える上で役立つと考えていただけたらと思います。
今回解説する内容の多くは「アブラナ科野菜根こぶ病総合防除マニュアル」(東北農業研究センター)にありますので、興味のある方はそちらをご覧いただけたらと思います。
● おとり植物の効果は、DRCと発病度によって異なる
早速、DRCの曲線でおとり植物の効果について考えてみたいと思います。
曲線は病原菌が増えるにしたがってS字を描いています。
おとり植物の病原菌密度低減効果を7割(0.7)と仮定して、①では105/g(土)の圃場で、②では104/g(土)の圃場でおとり植物を使ったと仮定します。
ここで低減率を0.7と仮定したのは、前回の各種植物・資材における根こぶ病菌減少効果の結果の平均であるからです。
それでは結果を見てみたいと思います。
病原菌密度を7割下げた時に、①では発病度は約90から約80程度に下がっていますが、②では発病度が約80から約40まで下がっていることがわかります。
①は激発圃場ですから、少し下がったとはいえ防除効果があるとはいえないのではないでしょうか。それに比べ、②では顕著に発病抑止効果が見られると考えて良いと思います。
このように、おとり植物の防除効果は、使用時の圃場のDRC(病原菌密度―発病度曲線)と病原菌密度によって異なると考えることができます。
今回はここまで。次回は、「おとり植物を上手く使う方法」についてご紹介いたします。
■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る