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第22話・研究余話(1)
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

(本記事は、2020年12月にサングリン太陽園Webサイトにて公開された記事です)

 

年号が平成から令和となって、もう2年目。今年は新型コロナが、感染症の脅威をいやというほど人間に再認識させている。植物の病気はほとんどが感染症(=伝染病)なので、おおいに植物の病気について語る機会のようだ。しかし時流に便乗するようで、気が進まない。
編集者からは、じわじわと責められ、ついに「研究余話」を書かせていただくこととする。いずれも、過去に書き記した小文を、本誌掲載にあたり一部修正したものとなる。末尾に初出の年月を記した。

 


 

人生足別離

 

 4月は転勤や転校の時節で、別離と出会いが交錯する。別離などとは大袈裟だけれど、「人生別離足(オオ)シ」という言葉がふっと頭に浮かんでしまった。唐詩選に勧酒(酒ヲ勧ム)という作品がある。この句はその作品の一節だ。原文の韻律も素敵で良いのだが、短編小説の名手・井伏鱒二の口語訳が、また別の飄飄乎(ひょうひょうこ)とした詩になっている。
 “コノ杯ヲ受ケテクレ/ドウゾナミナミツイデオクレ/花ニ嵐ノタトエモアルゾ/「サヨナラ」ダケガ人生ダ”
 別れと酒。古来この詩が日本人に愛され、現代日本人が演歌を愛する所以(ゆえん)もこの辺りに由来するかと思う。
 平成4年4月、それまで11年住み慣れた中央農業試験場から、北見農業試験場に勤務することとなった。途中2年間の稲作部(岩見沢市)勤務も含めて、そのほぼ全期間にわたり、土壌病害を中心とする現地試験に関わり続けた。アスパラガスの茎枯病・衰退現象、食用ユリの根腐病証、アズキ萎凋病。土壌病害が現地優先となるのは当然だった。研究内容のすべてが、病気を発生させる土(病土)に左右されるからだ。
 病土が仲立ちとなって、人との出会いが生まれる。その連続の中で共同研究の原型も確かめられたように思う。農家、現地の農業改良普及所、それに研究者が全力投球する。そこからこそ、成果が生まれ信頼関係もでき上がったのだった。南羊蹄や伊達などの、数多くの現地試験でそのことを教えられたのである。前出の詩句ではないが、時に酌み交わす酒も、共同研究を深める、とっておきの潤滑油ではあった。最も信頼するに足る友人が、下戸だったのは不思議としか言いようのないジョークではあったけれど。
 仕事で何度か泊まった訓子府は、夜の星の美しさが印象深い。かねてから敬愛する、数人の方々に会えるのも待ち遠しい。しかしながら、病理研究者の悲しい性(さが)で、作物の病気との出会いにもまた、期待と不安で胸が騒ぐのである。
(平成4年4月)

 


▲北見農試・初夏;北見農試研究庁舎全景

 


 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです