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第22話・研究余話(2)
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

前回【第22話・研究余話(1)】の続きです。

 


 

悲愁の美

 

 あきこちゃんへ。落ち葉にも香りがあるんですね。そんなこと、すっかり忘れていました。
 家から研究室までは、ゆっくり歩いても7、8分の僅(わず)かな道なのですが、その道沿いの木々が、さかんに枯れ葉を散らしています。朝、この道を歩くと、落ち葉の香りが、ひんやりした風に舞っています。
 この前送った室生犀星の「津の国人」、すらすら読めたとのこと、驚いています。中学生に勧めるには、少し難しかったかと思っていたのです。でもよく考えてみると、平安朝から材料をとったこの本のみずみずしい文体は、あなたのような中学生にこそ、すんなり受け入れられるのかも知れません。
 さて別便で、平家物語(全3冊)送りました。3冊を一度にしたのには、わけがあるのですが、そのことはあとがきで書きます。まず声を出して読むことを勧めます。意味がわかるかどうかは気にしないで、どんどん読んでください。まったく不思議なのですが、そのうち感じがつかめてくる筈(はず)です。
 今日送った新潮社版のものは、本文の横にちょっとした口語訳が付いていますから、それがいい手助けになってくれます。少しだけいいところを書いてみます。
 “昨日は東山の関のふもとに轡(くつばみ)を並べ、今日は西海の波の上に纜(ともずな)を解く。雲海沈々として晴天まさに暮れなんとす。孤島に霧へだたって、月海上に浮かぶ”(第七十句、平家一門都落ち)
 どう、読みたくなるでしょう。本は最初から丁寧に、というのはこの物語には無用。3冊の中には気に入るところがきっとあるでしょう。その節を何度も読んで欲しい、と思うのです。
 研究室の窓から、前庭の楓(かえで)が見えます。夕陽に生えるその紅葉は、息を呑(の)む美しさでした。この春、訓子府に来て印象に残ったものの一つです。そしてすぐ連想したのが、この平家物語に出てくる場面でした。そう、非愁美(水原一氏の言葉)の漂う蕭(しめ)やかな感動に、この本を通じて出合ってほしいものです。ではまた。
(平成4年10月)

 


▲北見農試研究部長室より前庭;紅葉の頃

 


 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです