- 2024年11月
- 2024年10月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年8月
- 2023年4月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年8月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
第46話・キャベツ根こぶ病マニュアルの紹介~圃場診断システム推進機構・對馬理事長の「ヘソディムの話」
第44話・45話では、ヘソディムに関連したプロジェクト以外で開発された「ダイズ黒根腐病マニュアル」について取り上げました。今回は、ヘソディムの普及を目指す農林研究推進事業委託プロジェクト研究「人工知能未来農業創造プロジェクト(AIを活用した土壌病害診断技術の開発)」で作られた「キャベツ根こぶ病に対する神奈川県版ヘソディムマニュアル(以下、キャベツ根こぶ病マニュアル)」をご紹介します。
キャベツ根こぶ病マニュアルはヘソディム関連のプロジェクトで開発されたことから、ダイズ黒根腐病マニュアルとは異なりタイトルにもヘソディムと明記されています。キャベツ根こぶ病に対するマニュアルは以前から複数作られていますが、ヘソディムマニュアルは基本的概念が同じでも、地域の状況や生産者の目標、作成者の考え方等によって内容が異なります。神奈川県の研究者がどのように考えて作成したかについても考えていただけたらと思います。
キャベツ根こぶ病マニュアル(作成:神奈川県農業技術センター)の紹介
(情報提供:神奈川県農業技術センター 島田涼子氏)
概要
他県ではいくつかのマニュアルが作成されていたものの、神奈川県の『夏まきキャベツ』の産地に対応したマニュアルは作成されていなかったことを受け、神奈川県農業技術センターでは2017~21年の5年をかけて横浜・藤沢地域で栽培が多い「しずはま1号」ののべ176の栽培ほ場を調査。調査区の休眠胞子密度、土壌物理化学性、農薬使用等栽培状況および収穫時の根部発病程度を調査し、土壌pH、休眠胞子密度、前年同作型の発病程度等と当年の発病程度との関係を明らかにするとともに、圃場毎の発病ポテンシャルの評価表や、発病ポテンシャルのレベルに合わせた対策技術リストを作成しました。
マニュアルの特徴
ア)診断と発病程度の評価
診断項目は、前作(前年同作型)発病程度、セルトレイ検定、矯正前土壌pH、周辺圃場の発病の4項目です。他県の根こぶ病マニュアルでは、病原菌密度を診断項目にするケースが多いものの、このマニュアルでは診断コスト減を考えて採用しませんでした。代わりに、ほ場からもってきた土壌に植物を栽培し、発病を確認するセルトレイ検定を採用しています。
【発病リスクの評価方法】
【総合評価】
以上の結果を基に、総合評価で発病ポテンシャルのレベルを評価します。レベルを4段階に分けていることが特徴です。
このマニュアルでは「しずはま1号」栽培ほ場を対象としていますが、レベル4は『「しずはま1号」の作付けを中止する(キャベツを栽培するなら根こぶ病耐病性・抵抗性品種作付け)レベルである』としています。
ウ)対策技術
表1にまとめられた発病ポテンシャル別の対策技術によると、土壌pH矯正に関してはレベル1から4まで対策を行うことになっています。一方で抵抗性品種については、レベル3で「可能なら行う」、レベル4で「行う」ことになっています。このように、レベルに応じた対策技術がリスト化されています。
また、一次予防を重視するヘソディムでは『圃場衛生』を重視しますが、本マニュアルでも『圃場衛生』はレベル1から4で「行う」としていることは注目したいところです。
『明渠・暗渠・耕盤破砕』もレベル1から4で「行う」とするなど、他の根こぶ病マニュアルと同様に強調されています。また、根こぶ病特有の技術である『おとり植物』の活用や、通常発病が激しい場合に提案することの多い輪作が、レベル1から4で「可能なら行う」としている点が特徴と言えます。
エ)成果
マニュアルに基づき、発病ポテンシャルレベルごとの対策技術が妥当であるかを検証するために、収集した現地生産者ほ場のデータを評価しています。評価では、圃場の発病度が翌年の収量に影響が出る可能性が高いと考えられる20以上となった場合を防除失敗とみなしています。最終的に、「発病ポテンシャルの評価または評価に応じた対策が不適当であった」とされた調査区は176区中21区であり、残りの176区中155区(88%)は「対策は妥当」と判断されました。
オ)今後の課題
島田氏らによると、次の2つの課題が挙げられています。1つは、生産者が土壌pHの矯正を希望する場合、石灰資材の投入量について、当センターで圃場ごとに土壌の緩衝能曲線を作成して決定しているため、多数の圃場に対応できないこと。2つ目は、高pHに土壌を矯正した場合、キャベツの裏作として作付ける品目も含めた微量要素欠の有無や土壌pHの上限値について検討が不十分であることです。
(参考文献)島田涼子ら:神奈川県農業技術センター研究報告 169:1-11(2024)
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cf7/cnt/f450010/no-169tekiyou.html
■執筆者プロフィール
特定非営利活動法人 圃場診断システム推進機構
理事長 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授(2022年退職)
2022年 NPO法人圃場システム推進機構内にHeSoDiM-AI普及推進協議会を設立(代表)
現在に至る