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第44話・ダイズ黒根腐病マニュアルの紹介①~圃場診断システム推進機構・對馬理事長の「ヘソディムの話」
「ヘソディム」の話第3話~第14話の中で、農林水産省のプロジェクトで作成したヘソディムマニュアル(2013年版・2016年版)の一部をご紹介しました。2013年版・2016年版には、16病害に関する合計20マニュアルが掲載されていますが、その後もヘソディムマニュアルやヘソディムを意識した土壌病害管理マニュアルが報告されています。作成者からの情報をもとに、今回から2回にわたってダイズ黒根腐病マニュアルをご紹介します。
ダイズ黒根腐病マニュアル(作成:農研機構)
(情報提供:農研機構植物防疫部門 越智 直 氏)
① マニュアルの特徴
これまでのヘソディムマニュアルは、ヘソディム関連プロジェクトによって作成されてきましたが、ダイズ黒根腐病マニュアルは別のプロジェクトで作成された経緯もあり、ダイズ黒根腐病マニュアルのタイトルや本文にヘソディムの名称は入っていません。ですが、作成者の1人である越智氏に確認したところ、ヘソディムを意識して作成したとのことでしたので、ここに紹介します。
ヘソディムの名称は使わなくても、ヘソディムを意識したマニュアルが作られていることは、へソディムが確実に病害関係者の間に広がっていることを示していると考えます。
その一方で、以下の2つのことを常に考える必要があると思っています。
1つは、ヘソディムを普及させたいという立場(ヘソディム提案者及び関係者)からすると、ヘソディムの名称のないマニュアルは、作成者に確認した上で、ヘソディムの中で位置付けて宣伝する必要があるということです。なぜなら、ヘソディムという名称がないと、誰もヘソディムが意識されたものとは思わないので、ヘソディム関係者の議論の対象にならないからです。
もう1つは、「ヘソディムの話」でもご紹介している「事例研究」と「定義された概念」(ヘソディム)の違いについてです。マニュアルを普及させたいという立場(マニュアル作成者と関係者)に立つと、このマニュアルは『事例研究』に該当するため、ダイズ病害か病原菌に関心のある方以外の方が見るケースが少なくなってしまいます。
こうしたことから、ヘソディムを意識したマニュアルに関しては、作成者の了解のもとにヘソディムに位置付けて宣伝していくことはとても重要であると考えています。ぜひ読者の皆さんにも、ダイズ黒根腐病マニュアルをヘソディムマニュアルのひとつと捉えて、議論の中で有効活用していただきたいです。
② ダイズ黒根腐病とは(マニュアルより)
マニュアルによると、ダイズ黒根腐病の有効な防除手段はないそうです。このことが、ヘソディム(一次予防:病気が出ないようにする)の考え方を採用することになったのではないかと推察します。
【ダイズ黒根腐病の特徴】
● Calonectria ilicicola によって引き起こされる土壌伝染性の重要病害。
● 1968年に千葉県において初めて確認され、その後、大豆作付面積・頻度の増加とともに、発生圃場・地域が拡大。
● 水田転換畑のような土壌水分の高い圃場において多発する傾向にあり、水田転換畑の大豆作への利用が増大してきたことも、本病拡大の一因と考えられている。
● 主に地下部(根)で発病するため、感染・発病を早い段階で検知することが困難。
● 重症化すると枯死する場合もあるが、軽症個体の場合は早期黄化により熟期が早まる程度で収穫に至る。
● 現時点で、本病に有効な抵抗性品種や完全に発病を抑制できる効果の高い技術は見出されていないため、栽培体系に耕種的・化学的防除技術を適宜組み合わせて実施し、発病リスクを低くした好適な環境・条件下で大豆を栽培することが、安定かつ多収生産するために重要。
今回はここまで。次回は、ダイズ黒根腐病マニュアルの診断方法や手順、ヘソディムマニュアルとの違いをご紹介したいと思います。
■執筆者プロフィール
特定非営利活動法人 圃場診断システム推進機構
理事長 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授(2022年退職)
2022年 NPO法人圃場システム推進機構内にHeSoDiM-AI普及推進協議会を設立(代表)
現在に至る