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第15話・連作障害
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

TPPが話題になっています。北海道農業が危機にあるといわれています。問題点がいくつかある中で、「輪作体系が維持できないから」というのも大切なポイントです。北海道の畑で栽培されている、主な4作物(小麦、ジャガイモ、ビート、豆類)のどれ一つが抜けても困るのです。特に砂糖の原料となるビートは、激しい競争にさらされそうです。輪作の反対が、連作です。連作がなぜ悪いのか。今回はその話です。

 


 

《 連作は良くない 》

連作が良くないというのは、常識かもしれません。生産者だけでなく、消費者でも、農業に関心をもつほどの人であれば、「同じ作物をつくり続けると、収穫が減り、連作障害が出る」ということを口にするからです。その原因はなんでしょうか。古くは微量要素の欠乏とか有害物質の蓄積などと考えられ、研究も重ねられました。しかし、現在では土壌病害がもっとも重要な原因であることが解明されています。同じ作物が栽培され続けると、特定の病原菌(土壌病菌)がすみつき、増えるのです。

 


 

《 水稲は連作ですよね? 》

けれど、土壌病菌にも弱点があります。大部分が水に弱いのです。土が水中に没した状態が続くと、大部分の菌は死滅します。水田で連作障害が問題とならないのはこのためです。水田で生育しているイネの根の付近の病原菌は、ほとんど制圧されているのです。イネが畑でつくられたことがあります。陸稲と書き「オカボ」と読みます。茨城県など本州各地で栽培されていましたが、Pyrenocheta sp.(ピレノケータsp)という土壌病菌が連作障害を起こしました。


 

《 畑作4品の土壌病害 》

以下にTPPとの関連が深い北海道の畑作4作物と土壌病害を並べます。

 

〈1小麦〉

「条斑病」が有名です(写真1)。北海道全域に発生しました。輪作によって、発病が激減する病気です。葉にストライプ(stripe:縞)ができるのでこの名がついているのです。カビの病気です。「立枯病」もみられます(写真2)。

 

写真1 小麦の条斑病:アメリカ合衆国の国旗は星条旗(=Stars and stripes)。ただし、条斑病は日本で西門義一博士が新発見した病気

 

写真2 小麦の立枯病:穂が白くなるのもこの病気の特徴

 

〈2ビート(テンサイ)〉

サトウダイコンが正しい名前です。根にたっぷり糖分を蓄え、これが砂糖の原料となります。その根が侵されるのが「そう(叢)根病」です(写真3、4)。ウイルスが病原体ですが、このウイルスを運んで歩くのは、土中にすみついているPolymyxa beta(ポリミキサ・ベータ)というカビです。

 

写真3 ビートのそう根病:葉が黄色くなるのが特徴

 

写真4 ビートのそう根病:根の生育が異常

 

〈3ジャガイモ(バレイショ)〉

最大の難敵は「そうか病」(写真5)です。ジャガイモの塊茎(第4話参照)に瘡蓋(かさぶた)をつくるので、「瘡痂(そうか)病」の名がついたのです。放線菌が病原でバクテリア(細菌)の一種です。放線菌の仲間には人間の役に立つものも多く、抗生物質をつくり、ヒトの病気の治療に使われているものもあります。

 

写真5 ジャガイモのそうか病:塊茎表面にできる瘡蓋(かさぶた)のせいで商品価値が失われる

 

〈4豆類(アズキ、ダイズ、インゲンマメ)〉

アズキでは「萎凋病」、ダイズでは「落葉病」(写真6、7)、インゲンマメ(菜豆)では、ピシウム菌による病害が懸念されます。これらはいずれもカビが病原体です。

 

写真6 ダイズの落葉病:葉がパラパラと散ってしまうのでこの名がついた

 

写真7 ダイズの落葉病:茎の中が褐色になっている。左の1本は健全なもの

 


 

今回のキーワード:連作障害

 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです
※写真掲載:一部、(一社)北海道植物防疫協会原図