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第26話・ヘソディムにおける予防の考え方(1)~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」

ヘソディム「健康診断に基づく土壌病害管理」は、その名のとおり、予防を重視しています。しかし、一口に「予防」といっても、人によってイメージは異なるようです。

そこで、ここではヘソディムにおける「予防の意義」について考えてみたいと思います。

 


 

以前、「ヘソディムの特徴を一言でいうと何ですか」という質問を受けることがありました。この質問に対して、ヘソディムの「定義(3条件を満たすもの)」を話すのは簡単なのですが、質問者に合わせたわかりやすい回答を考えようとすると、そう簡単ではありませんでした。従来の防除法との違いを聞きたいのだなと思う人がいれば、IPM(総合的有害生物管理)との違いやら、有機農業に使えるかなど、求めている回答が異なると思ったからでした。

わたしの代表的な回答としては、ヘソディムの名称を基に、「圃場の健康診断を行い、その結果を基に土壌病害を適正に管理するシステムです」とか、もっと簡単に「予防を重視した新しい土壌病害管理のシステムです」というものでした。

しかし、ある時、「今まで県が取り組んできた防除暦を活用した防除対策(カレンダー防除という)も《予防重視の対策》なのではないか。」と質問されたことがありました。つまり予防重視はヘソディムの特徴と言えるのか、という質問だと思いました。カレンダー防除は発生調査で集めたデータを基に、病気の蔓延を防ぐのが目的ですので、予防重視は確かです。その一方で、ヘソディムの提案者としては、ヘソディムとはちょっと違うなと感じたのも事実です。そこで、ヘソディムの提案者として、ここで、皆さんとこの点を整理してみたいと考えました。

 

【補足】カレンダー防除とヘソディムの違いについて

「カレンダー防除」と「ヘソディム」の違いは明確です。

カレンダー防除とは一般に、病害の発生データに基づいて一定の地域を対象に一斉に防除する方法です。

比較的少ない人員で、効率的に広域の防除を行う点においてとても優れた方法と言われています。一方で、IPMの論文の中では、「カレンダー防除は最悪を想定した防除法」とも言われ、必ずしも防除しなくて良い圃場まで防除することになることから、一部の圃場においては「無駄な防除」が行われることになることも指摘されています。

これに対してヘソディムは、圃場毎に管理することを目的としているので、この点が「カレンダー防除」とは決定的に異なります。具体的には、圃場毎の発病ポテンシャルで圃場のレベルを評価し、そのレベルに応じた対策を行うため、結果的に「無駄な防除」が減ることになります。

 

 

1.発生予察事業とは

まず、発生予察事業についての紹介です。発生予察事業は植物防疫法の中で以下のように定義されています。

 

《植物防疫法》

(定義)第2条  4

この法律で「発生予察事業」とは、有害動物又は有害植物の防除を適時で経済的なものにするため、有害動物又は有害植物の繁殖、気象、農作物の生育等の状況を調査して、農作物についての有害動物又は有害植物による損害の発生を予察し、及びそれに基づく情報を関係者に提供する事業をいう。

 

そして、さらに、都道府県の役割についての記載があります。

 

(都道府県の発生予察事業) 第31条

都道府県は、指定有害動植物以外の有害動物又は有害植物について、発生予察事業を行うものとする。
都道府県知事は、農林水産大臣に対し、前項の発生予察事業の内容及び結果を適時に報告しなければならない。
農林水産大臣は、農作物についての指定有害動植物以外の有害動物又は有害植物による損害が都道府県の区域を超えて発生するおそれがある場合において、都道府県の発生予察事業の総合調整を図るため特に必要があると認めるときは、都道府県知事に対し、必要な指示をすることができる。
(病害虫防除所)
第三十二条  病害虫防除所は、地方における植物の検疫及び防除に資するため、都道府県が設置する。

 

このような仕組みですので、県はこの法律に基づき、「発病調査」―「データ解析」―「発生予察情報の提供」―「予察情報に基づく防除計画作成防除指導」を行うことになっていると思います。そして、生産現場では、それらの情報を基に作られた「防除暦」に従って防除を実施していると思います。このように防除暦を基に防除することをカレンダー防除と言います。なお、国内ではスケジュール防除と言われることがありますが、わたしは同じ意味で使っています。この用語の使い方としては、環境省のサイトで、「農薬のスケジュール散布はやめよう」の中に、『「毎年この時期に散布しているから」といった、 病害虫の発生や被害を確認せずに定期的に農薬を散布することはやめましょう』という文章がありました。スケジュール防除(カレンダー防除)をイメージできたのではないでしょうか。もちろん、実際の現場では、防除暦を基に、圃場の発生状況に応じていろいろ対策を工夫している指導者、生産者がいることも聞いていますが、ここではあくまでもカレンダー防除の特徴という意味で、紹介しました。そして、これらの防除の特徴は、「発生情報」がキーになっているということです。以上のことをまとめると、カレンダー防除は、「発病情報を基に病気の蔓延を防ぐ」ことを重視していると言えるのではないでしょうか。

*環境省のサイトはこちら

 

これに対して、ヘソディムは、「未病」の圃場も診断の対象にしているのが特徴です。つまり、ヘソディムは、「病気が出る前から圃場の健康を診断して病気が出ないようにする、あるいは、一株でも発生したら迅速に対応する」ことを重視していると言えます。繰り返しますが、両方とも「予防」を重視していることは間違いありませんので、次回は「予防」について、「予防医学」を参考にもう少し詳しく整理したいと思います。

 


 

■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授(2022年退職)

2022年 NPO法人圃場システム推進機構内にHeSoDiM-AI普及推進協議会を設立(代表)

現在に至る