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第8話・ジャガイモ疫病
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

19世紀中頃のことです。ジャガイモを主食とするアイルランドで疫病が発生し、全国的な大飢饉となりました。このため160万人がアメリカに移民しました。この中にはケネディ大統領の祖父もいたのです。疫病(えきびょう)にまつわる有名な逸話です。

 


 

《 病徴 》

地上部では主に葉に症状が出ます。その時期はジャガイモの花が咲く頃です。はじめに葉の表面に水浸状に褐点ができ、次第に拡大してほぼ円形の暗緑色の病斑となります(写真1)。葉の裏側には白い粉状のカビがびっしり生えています。これは病原菌の胞子(分生子[ぶんせいし])です(写真2)。

 

写真1(左)進展病斑:疫病のまん延が予測される

写真2(右)葉の裏側の症状:白い粉は分生子

成熟した茎に発病することはほとんどありませんが、生育初期の茎で発病することがあります(写真3)。この場合、褐色の病斑に取り巻かれた茎は折れやすくなります。激しく発病がまん延すると、畑全体が枯れ上がることがあります(写真4、5)

 

写真3 茎にも病斑ができることがある

 

写真4 葉にたくさんの病斑ができている

 

写真5 激しく発病すると枯れ込んでしまう

 

ジャガイモの食用部分は「塊茎(かいけい)」です。その塊茎でも発病します。表面に黒みを帯びた凹みを生じ、内部はレンガ色~褐色になります。特に「塊茎腐敗」と名づけられています(写真6)。疫病菌の後に別のカビや細菌が入り悪臭を放ちます。

 

写真6 塊茎腐敗:疫病で腐ったジャガイモ

 


 

《 伝染経路 》

この病気の第一次伝染源は種イモです。保菌している種イモを植えつけると、およそ50日後には地際部に分生子がつくられ、上の方の葉に感染して病斑をつくります。この大量の分生子こそ、まん延の主役です。分生子はその子どもの遊走子(ゆうそうし)を生んで、葉の中に侵入し発病させます(写真7)。一部の遊走子は雨水と一緒に土中に染み込み、塊茎の芽のところから侵入して「塊茎腐敗」を起こすことになります。

 

写真7 分生子:先端の膨らみを乳頭突起という。長径が約0.033mmのレモン状の袋で、袋の中の無数の遊走子が水中を泳ぎ感染を広げる

 


 

《 発生環境 》

もともと水を好むのがこの病原菌の特徴です。低温と高い湿度は分生子をたくさんつくらせ、葉への遊走子の侵入を助けます。また気温が17℃以下で、遊走子を土の中に送り込むための多量の降雨が続くと、塊茎腐敗が多発します。

 


 

《 病原菌と病名 》

Phytophthora infestans(フィトフトーラ・インフェスタンス)が病原菌です。植物の方では、Phytophthora菌が起こす病気に「疫病」という名前がつきます。ナス、カボチャ、リンゴ、イチゴなどたくさんの作物が疫病にかかります。

 


 

今回のキーワード:遊走子、塊茎腐敗、乳頭突起

 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄

Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです
※掲載写真:一部、秋野聖之氏、(一社)北海道植物防疫協会原図