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第7話・ダイズの苗立枯病
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

乾杯の一杯といえばビール。ビールに欠かせないのが枝豆。今回はその枝豆、つまりダイズの話です。

 

《 出芽-シュツガ- 》

さて、どの作物でもそうですが、種が芽を出すのを発芽といいます。土中で発芽した芽が地上に顔を出すと、「出芽」といって区別します。少し見づらいかもしれませんが、ダイズ畑の写真(写真1)です。「おや、芽が出ていないぞ」。これが「苗立枯(なえたちがれ)病」に気づくきっかけです。

 

写真1 畑での症状。出芽していないものが多い


 

《 病徴 》

畑に播かれた種は、さしずめ鳥が産み落とした卵といったところでしょうか。この卵を狙うのがピシウム菌です。種が吸水する頃に菌も一緒に種の中に侵入して、感染が起こります。このため感染した種は土中で腐ることが多いのです(写真2)。苗立枯病は播種後、冷たい雨がしとしと続くと発生がひどくなります。ピシウム菌は水が大好きです。寒さは出芽を遅らせます。出芽の遅れた種は襲われやすいのです。孵化の遅れた卵が襲われやすいのと同じ理屈です。

 

写真2 発病苗:ほぼ健全7、生育不良7、枯死5、未発芽・枯死11(1個は消失)、合計30個体


 

《 アズキやエンドウマメも狙われる 》

ピシウム菌に襲われるのはダイズだけではありません。エンドウマメ(写真3)やアズキ(写真4)も狙われるのです。症状もよく似ていますね。病原菌が微妙に違うことにご注意ください(下部表)。ピシウム菌のグループにもいくつかの種類があるのです。

写真3 エンドウマメ病徴

 

写真4 アズキ病徴]

 

先頭のP. はピシウム。以下順に1)ウルティマム、2)スピノーサム、3)イレギュラーレ、4)ミリオティラム


 

《 病原菌のこと 》

ピシウム菌は真っ白な綿毛状のカビ(写真5)で本当に可愛いらしいのです(でも可愛いかどうかは主観の問題でしょう)。この菌には雄と雌があり、その子どもが卵胞子(らんほうし)です。卵胞子の入っている袋が蔵卵器(ぞうらんき)です。この表面はスベスベだったり棘(とげ)があったりします(写真6、7)。卵胞子はピシウム菌が土中で生き抜くための、必須の姿です。

 

写真5 左側の綿毛状のカビがピシウム菌。右側はコムギの病気を起こす病原菌

 

写真6 P.spinosum:蔵卵器の表面に棘がある

 

写真7 P.ultimum:蔵卵器の表面が平滑


 

《 防除法 》
 苗立枯病を防ぐには、種子消毒というとっておきの方法があります。種子に薬剤を塗って種を播くと、出芽が大変良くなります。種子表面についている薬剤が病原菌の侵入を阻止しているのです。種子消毒は、卵の孵化を守る強い味方なのです。クルーザーMAXX、キヒゲンR-2フロアブルを使うと高い防除効果があります(写真8、9)。

 

写真8 種子処理による防除効果:上からクルーザーMAXX、キヒゲンR-2フロアブル、無処理

 

写真9 種子処理による防除効果:病原菌を土壌混和。左より、クルーザーMAXX、キヒゲンR-2フロアブル、無処理


 

今回のキーワード:出芽、卵胞子、種子消毒

 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄

Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです
※掲載写真:一部、清水基滋氏原図、その他は著者提供、「北海道病害虫防除提要(第6版)」からの借用によるもの