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第20話・仮説検証について(3)~東京農業大学・對馬先生の「ヘソディムの話」
「ヘソディムの話」ではこれまで、マニュアルや個別技術(診断、防除技術など個々の技術のこと)のお話をしてきました。第18話から少し話題を変えて、ヘソディムを考える上で大切な「仮説検証」の紹介をすることにしました。今回は、立てた仮説の検証方法についてご紹介いたします。
3. 検証の仕方
検証は、仮説が正しいかどうかについて実験を行って証明することです。
実際に、第19話で立てた仮説1「圃場の一か所だけ○○病が多発する原因は××だ」の検証を考えてみたいと思います。なお、検証のための実験の計画に必ずしも正解はありません。したがって、以下の検証は一つの事例と考えていただけたらと思います。
① 仮説1「圃場の一か所だけ○○病が多発する原因は××だ」の検証
「xxによって多発する」のでは具体的に検証できないので、ここでは「xx」を「A箇所は他の場所より排水が悪く土壌水分量が多い」と仮定したいと思います。そうすると、たとえば以下の実験が考えられます。
○ 実験1(概要)
「A箇所と別の場所で土壌水分量を栽培期間中計測し、A箇所が明らかに他の場所より土壌水分量が多いことを調べる。同時に、○○病が他箇所より多いことも確認する。」
〈 実験1の期待される結果 〉
「A箇所が他の場所より発病度・土壌水分量が多いこと」が認められる。
このようになると思います。なお、実際の研究では、自然(圃場)相手の研究ですから、同じ実験を複数年、複数回実施して間違いないことを確認する必要があります。さらに、次のような実験も考えられます。
○ 実験2(概要)
「研究室内やハウス内に土壌(発病なし)を運び込み、その土壌水分量をいろいろ変えて、病原菌を接種し、発病度と土壌水分量の関係を調べる。」
〈 実験2の期待される結果 〉
「土壌水分が多いほど発病が多くなること」が認められる。
これも仮説の検証になると思います。これだけではなく、仮説を証明するための実験はいくらでもあると思います。そして、検証実験が多いほど、仮説のもっともらしさが強くなり、説得力が増します。
② 仮説が実験で否定された場合
この場合は、仮説の再構築を行います。具体的には、「A箇所だけが多発になったのは△△が原因である。」とすれば良いわけです。
③ 検証の推論法
ここでも検証に使われる推論法があります。それは「演繹的(えんえき)的推論」と言われています。
「大前提-前提-事象」という形式で推論を行うものです。これにも以下のような有名な例があります。
大前提(生物は必ず死ぬ)-前提(ソクラテスは生物である)-事象(よって、ソクラテスは必ず死ぬ)というものです。
科学では、「大前提(仮説)が正しければ、この推論で出てくる事象が実験で得られるはずだ」と考え、検証の実験に使います。
実験1について考えてみると、わたしは、大前提(仮説:A箇所の土壌水分量が多いので多発した:言い換えると、土壌水分量が少ないと少発になる)と、前提「発病の少ないB箇所、C箇所・・・は圃場内にある(ソクラテスは生物だ)」ならば、事象「B、C箇所はA箇所より土壌水分量が少ないはずだ(A箇所はB、C箇所より多いはずだ)」と考え、実験計画を作ったことになります。
④ 演繹的推論の特徴
帰納的推論が多数のデータから一般化(法則など)を見つけるのに使うのに対して、演繹的推論は、仮説(正しければ法則、一般解となる)から事象を求める方法ということができます。この推論の特徴は、求めようとする結果(事象)は大前提の中にすべて入っており、大前提~前提~事象に至る論理が正しいことが前提となっています。したがって、仮説~検証の論理に問題がなければ、実験の結果はとても説得力をもつことになります。
その一方で、これも知っておく必要があります。それは、「仮説は演繹的に検証された。よって、仮説は正しい。」とは断定できないということです。これは論理の問題です。言い換えると、「A⇒(ならば)Bの時、B⇒(ならば)Aである。」と言えないということです。なんだか、ややこしくなりましたが、これも論理的に重要なことです。以上から、「仮説検証」では、少しでも多くの検証を積み上げて、仮説の最もらしさを示すことに意義があります。
今回はここまで。次回は、農業関係者の皆さまがすぐにほ場で実践できる仮説検証についてお伝えします。
■執筆者プロフィール
東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室
教授 對馬誠也(つしま せいや)
1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授
現在に至る