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第23話・ネギ・タマネギのさび病
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

今回はネギとタマネギのさび病の話をします。ネギは生産者・消費者の間で、普通「長ネギ」と呼ばれています。ですので、ここでも長ネギとして話を進めることにしましょう。長ネギの最重要病害はさび病です。

 


 

《 発生状況 》

北海道で露地栽培をしている長ネギは、どの地域でもさび病が発生しています。農家の皆さんは、この防除に一番苦労しているのです。さび病が発生すると、長ネギの商品価値が著しく低下するからです。タマネギでは収量低下の要因となります。その症状はー。

 



《 病 徴 》

長ネギの葉、花梗(ネギ坊主の乗っている台:太くて堅い)や、タマネギの葉などに円形~紡錘形(円柱状でまん中が太く、両端がしだいに細くなる形)の膨らんだ袋状の異物ができます(写真1、2)。この異物は、病原菌の胞子の塊で夏胞子堆(ナツホウシ・ツイ)といいます。夏胞子堆の中央部はしだいに橙黄色~橙褐色に変わります。写真3の症状です。この表面が破れて内部の黄赤色粉状の夏胞子を飛散させます。この胞子が飛んで病気を蔓延(まんえん)していきます(写真4)。

その後、夏胞子堆の近くに鉛色~栗褐色、長楕円形~紡錘形の異物が現れます。冬胞子(フユホウシ・ツイ)です。冬胞子は厚い細胞壁で覆われています。寒い冬を過ごすために、厚手の防寒服を着用しているのです(写真5)。

▲写真1 長ネギのさび病(病徴):黄色の粉状物は夏胞子です

 

▲写真2 タマネギのさび病(病徴)

 

▲写真3 タマネギのさび病(拡大病斑):病斑中央部の膨らみは夏胞子堆

 

▲写真4 夏胞子:タマネギの葉上にできたもの

 

▲写真5 冬胞子:タマネギの葉上にできたもの

 



《 伝染経路と発生環境 》

病原菌(冬胞子堆)は、病気に罹った枯れ葉中にめり込んだ状態で越年します。冬胞子で感染が起こると、感染部分に夏胞子ができ、その飛散により発病が蔓延します。6月頃から秋期まで常に発生します。発生量には品種間差が認められます。

 


 

《 病原菌と寄主範囲 》

病原菌は、Puccinia allii(パクシニア・アリー)という名前のカビです。ネギの他に、タマネギ、ニンニク、ニラおよびラッキョウに共通するさび病の病原菌です。長ネギでは、ごく普通に発生するさび病ですが、なぜかタマネギではチラホラの発生でした。ところが、昨年(2021年)は各地で発生が目立ちました。ニンニクでも発生するなど、今後の動向に注意が必要です。

ところで、このカビは、生きたネギ類の上でしか生存できません。つまり、ふつうのカビのように試験管内で培養できないのです。このようなカビを絶対寄生菌または活物寄生菌といいます。英語の obligate parasite の訳語です。

 


 

今回のキーワード:夏胞子堆、冬胞子堆、絶対寄生菌

 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです

※写真掲載:野津あゆみ氏、著者原図