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第30話・メロンつる割病 前編
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

メロンの美味しい季節です。北海道産のメロンは贈答品として大人気です。その栽培で最も重要な病害の一つがメロンつる割病。連作地で発生が多く、露地栽培、ハウス栽培ともに発生しています。

 


 

《アサガオ、キュウリ、メロンなどのツル〔蔓〕とは》

アサガオやキュウリを育てるのに支柱を立てます。これに「ツル」が巻き付いて、植物が生長してゆきます。このような植物(=つる性植物)では、茎の部分も含めツル〔蔓〕と呼称します。何やらややこしい話ですが、今回の病名と関係がありますので記憶しておいてください(写真1、2)。本シリーズ第21話(メロンつる枯病)も参照していただけると嬉しいです。

 

▲写真1 アサガオの蔓

▲写真2 キュウリの蔓

《病徴》

初期病徴としての葉枯症状
この病気は、病原菌が根から植物体内に感染して、茎や葉の養分・水分通路に侵入します。通路は維管束(いかんそく)といい、動物の血管に相当します。外から見たこの病気の初期症状は葉に現れ、一見すると葉の病害と誤診される恐れがあります。早朝は、株全体に生気がなく水の上がりの悪い株がみられます。始めのうちは、日中は回復しますが、次第に葉が葉脈に沿って褐変枯死します(写真3)。

 

▲写真3 葉枯症状

 

進行病徴としての萎凋症状
病勢が進展すると、ついには株全体が著しい萎凋症状を示すようになります。中心部にある太い根の先端部はあめ色に変わり、根や地際部の茎を横に切るとその断面では維管束が褐変しています(写真4)。
次に収穫穫間近の萎凋症状を写真5、6に示しました。果実を実らせようとメロンが一番頑張っている時に、体内に潜伏していた病原菌が一挙に活動し、養分や水分を奪ってゆくためです。過去には、このような症状がハウス全面に及ぶ事例もありました。

 

▲写真4 初期・萎凋症状

 

▲写真5 成熟期・萎凋症状1

 

▲写真6 成熟期・萎凋症状2

 

末期症状としてのつる割れ症状
さらに症状が悪化すると、地際部の茎(メロンではこの部分を「親づる」と呼んでいますが)に亀裂ができ、「ヤニ」を生じます。この末期症状の茎の亀裂を指して、つる割病という病名が付いたのでした。しかし、実際の畑でこの症状を見かけることはごく稀です。茎は割れずに、その表面に黒褐色の「ヤニ」(始めは赤色です!)を生じます。この病斑はさらに拡大してかさぶた状となり、多湿条件が続くと地面に近い部分に、分生子(病原菌の胞子)の塊がつくられます。この鮭肉色(=サーモンピンク)の塊には、スポロドキア(=胞子塊:ほうしかい)という名前が付いています。

 

後編では伝染経路や防除法などについて解説します。

 


 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。その後、北海道植物防疫協会にて、会長理事等を務めた。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土」に連載しているコラムを加筆・修正したものです

※写真:著者