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第55話・キャベツ根こぶ病マニュアル(鹿児島県版)の紹介②~圃場診断システム推進機構・對馬理事長の「ヘソディムの話」

前話に引き続き、鹿児島県で開発されたキャベツ根こぶ病のマニュアル(鹿児島県版)について紹介します。

 

3) 発病レベルの判定と対策

 

・発病レベルと対策の関係

発病レベルは

レベル0:発生なし
レベル1:ほ場の一部で発生
レベル2:ほ場全体で発生

となっており、レベル1、2はそれぞれ、1aと1b、2aと2bの違いは、ほ場pH7.0以上、未満で区別してます。ヘソディムでは発病ポテンシャルレベルを1~3の3段階にしていますが、この発病レベルも0~2の3段階に仕分けていると考えることができると思います。

 

発病リスクのレベルごとに、対策(化学的防除と耕種的防除)が書かれています。最初に、どのレベルにも共通する対策(以下、共通対策)として、耕種的防除(農機具、長靴の洗浄、苗での持ち込みを防ぐ、ほ場の排水性の改善)が記されています。そして、レベル0では、化学的防除にセルトレイ灌注、耕種的防除に上記の共通対策を実施することになっています。レベル1aと1bでは、化学的防除(セルトレイ潅注)は同じですが、耕種的防除は異なります。前者が作型の変更または抵抗性品種の利用としているのに対し、後者ではさらに土壌pHの矯正を加えています。レベル2a、2bになると、化学的防除では、両レベルともセルトレイ潅注+全面土壌混和になっています。耕種的防除では、前者の場合、作型の変更または抵抗性品種+セルトレイ潅注とするのに対して、後者では、さらに土壌pHの矯正+セルトレイ潅注を加えています。

レベル1と2を2段階に分けた方がより効果的な対策ができると判断しています。現場で多くのほ場を観察した研究者ならではの評価法だと考えます。

 

 

 

・レベル毎の具体的対策
このマニュアルの特徴は、レベル毎に対策を図で示していることです。利用する場合にとても役立つと思います。ここでは、レベル1aと2aの例を紹介します。

 

 

 

4) その他の根こぶ病対策

その他の根こぶ病対策としては、本シリーズでも何度か紹介している「おとり植物」が紹介され、例としてダイコンの作付けが書かれています。
おとり植物はうまく使うととても有効ですので、活用していただけたらと思います(おとり植物の効果的利用法、第15、16、17話参照)。

 

 

 

5) 実証事例

このマニュアルの特徴として、最後に実証事例があります。
本マニュアル利用者が活動しやすいように作成者が考えていることが伝わってきます。3事例が掲載されていますが、ここでは事例1を紹介します。

 

 

 

6) 成果(担当者からのコメント)

「本マニュアルは,概ね普及し,薬剤や抵抗性品種など中心に技術を組み合わせながら産地の状況に応じて活用されている。また,発生ほ場は,以前に比べて減少している状況である。現在は,ブロッコリーが増加してきており,本品目への応用が必要と考える。」との情報をいただきました。

 

7) 最後に

冒頭で述べましたが、本マニュアルは、「ヘソディム事業」に参画していなかった鹿児島県の方々が開発したものです。
第44話、第45話のダイズ病害マニュアル、第47話の山形県のトルコギキョウ立枯病の成功事例も、「ヘソディム事業」に参画していない方々によるものでした。ヘソディム事業に参加していない方による活用事例が徐々に増えており、ヘソディムの意義が知られてきていると感じています。

第2話で、ヘソディムという新概念(新システム)を提案した理由として、「たとえ作物や対象病害が異なっていても」使うことができ、多数の病害に活用されることよって、「(ヘソディムの)マーケットが大きくなるので普及する」と書きました。また、科学的には、定義された概念は、「誰でも真似ができると同時に、誰でも批判できる」ので、多くの関係者により議論されて、より良いものになっていくことも以前述べました。

本マニュアルについても、鹿児島県でさらに検討され、時に改良されながら普及していくことを期待したいと思います。

 

【参考文献】
・鹿児島県農業開発総合センター. 2019.3

 

 


 

■執筆者プロフィール
特定非営利活動法人 圃場診断システム推進機構
理事長 對馬誠也(つしま せいや)

1978年 北海道大学農学部農業生物学科卒業
1980年 北海道大学大学院修士課程 修了
1995年 博士号授与(北海道大学) 「イネもみ枯細菌病の生態と防除に関する研究」
1980年 農林水産省九州農業試験場病害第一研究室
1991年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
1995年 農林水産省東北農業試験場総合研究第3チーム
2000年 農林水産省農業環境技術研究所微生物管理科
2001年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室室長
2007年 独立行政法人農業環境技術研究所生物生態機能研究領域長
2009年 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長(2015年退職)
2015年 非営利活動法人活動法人圃場診断システム推進機構理事長
2017年 東京農業大学生命科学部分子微生物学科植物共生微生物学研究室 教授(2022年退職)

2022年 NPO法人圃場システム推進機構内にHeSoDiM-AI普及推進協議会を設立(代表)

現在に至る