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第1話・アスパラガス栽培におけるIoT(Internet of Things)
〜酪農学園大学・園田先生の「アスパラガスの話」

アスパラガスは、北海道を代表する野菜として知られ、春のギフト商品としても人気があります。しかし、その出荷量は、2007年が4,540tであったのに対し、10年後の2017年には3,110tに減少しています。その一因としては、北海道の主要作型が露地栽培であり、近年の天候不順や病害の発生などの影響を受けやすいことなどが考えられます。

この対応策として、アスパラガスにおいてもビニールハウスを用いた施設栽培があり、道南の檜山地方などでは産地化が図られています。アスパラガスは多年生の野菜であり、一度定植すると10年以上の栽培が継続することから、毎年定植と収穫がされる作物とは異なり、栽培に関する知識を蓄積し難い一面があります。

そこで、新規生産者等にはデータに基づく栽培管理法の開発が必要であると考え、栽培環境のモニタリングを行うとともに、栽培管理ソフトウェアの開発に取り組みましたので、ご紹介します。なお、本研究は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」(うち産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立)により実施しました。詳細は、本事業により作成しました「寒地における革新的技術を実装した高収益施設アスパラガス経営のマニュアル」をご覧ください。

 

寒地における革新的技術を実装した高収益施設アスパラガス経営のマニュアル

 


 

1 環境モニタリング

 

アスパラガス施設栽培圃場の土壌水分、電気伝導度(EC値)、室温およびCO2濃度を経時的に計測した結果、土壌水分をpF値約2.0、EC値を約0.5mS/cm、室温をアスパラガスの光合成促進の適温である20±5℃で維持することで安定した収量が得られると考えられました。また、CO2濃度は茎葉が繁茂した5月中旬ごろであれば、側窓を締め切っている夜間から早朝にかけては濃度が1000ppmを超えることも明らかになりました。アスパラガスは、CO2濃度が600~1000ppm付近にCO2飽和点があるとされることから、このような高いCO2濃度を光合成促進に役立てられる技術が開発できれば、より増収が図られると考えられます(第1図)。

 

第1図 アスパラガス施設栽培におけるIoTの活用例(モニタリングと栽培管理ソフトウェア)

 


 

2 栽培管理ソフトウェア

 

栽培管理ソフトウェアでは、アスパラガスの栽培時期を7つに分けた管理モードを設定し、それぞれの時期に対応した最適な管理条件を設定できるようにしました(第2図)。この栽培管理ソフトを用いれば、利用者は施設内に設置したPCのモニターやスマートフォンで栽培環境をモニタリングすることができ、ソフトウェアで異常時に関する通知を設定すれば、メールで通知がされるようにすることも可能になります。

 

第2図 施設アスパラガスの栽培時期を7つに分けた管理モード

●萌芽促進期 … 3月~4月上旬
●春取り期  … 4月上旬~5月末
●立茎期   … 6月~7月中旬
●夏秋取り期 … 7月中旬~9月中旬
●株養成期  … 9月中旬~10月中旬
●茎葉黄化期 … 10月中旬~11月中旬
●休眠期   … 11月下旬~2月末

 


 

3 今後の課題

 

現状は、環境モニタリングと栽培管理ソフトウェアの連動を確認した段階です。今後は、モニタリングデータを栽培管理ソフトウェアで解析し、側窓の開閉装置、施肥潅水装置、循環扇および加温装置などの機器の制御が可能になれば、新規栽培者等でもアスパラガスの施設栽培に取り組みやすくなると考えています。

 


 

■執筆者プロフィール

酪農学園大学農食環境学群循環農学類
教授 園田高広(そのだ たかひろ)

 

1986年 東京農業大学農学部農学科卒業
2002年 博士号授与(北海道大学) 「アスパラガスにおける効率的育種手法の開発」
2011年 酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類 農場生態学研究室 准教授
2012年 同 教授
現在に至る

 

主な研究テーマはアスパラガスの安定生産に関する研究
●アスパラガス新品種の育成
●アスパラガス病害の生態に基づく防除法の開発
●アスパラガスの生理生態に基づく栽培法の開発