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第5話・タマネギの乾腐病
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話
まず写真1を見ていただきましょう。 ◯印で囲った部分に注目です。左が長ネギ、右がタマネギです。料理の時はどちらも切り取られて捨てられます。今回はこの部分が主役です。
写真1 茎盤 : 長ネギもタマネギも同じくらいの大きさ
《 茎盤-ケイバン-》
この部分を茎盤といいます。英語の「stemplate(茎・皿)」からの翻訳です。茎盤を含む食用部分を鱗茎(リンケイ)といいますが、これは一枚一枚の葉が魚の鱗のように重なっているからです。しかし本当の茎にあたるのは茎盤だけです。茎盤と根の接着部から病原菌が侵入して起こる病気が「乾腐(カンプ)病」です。
《 さまざまな病徴 》
4月下旬に移植されたタマネギの苗は、50日ほどたった6月中旬になると病気が出始めます。この時期に感染を受けたタマネギは、鱗茎の片側に病斑を拡大させるために株全体が一方に曲がって倒れます。これが乾腐病の初期症状です(写真2、3)。さらに真夏になると、地上部の全ての葉が枯れてしまう症状が目立ち始めます。このようなものでは根も消失しています(写真4)。この時期をなんとか乗り切ったとしても収穫時に現れる症状があります。農家の人が「尻腐れ」と呼んで恐れるこの病気の末期症状です(写真5、6)。茎盤が壊れてボロボロになります。乾腐病といえばこの症状を指すといえます。
写真2 初期病徴 : 下の葉が黄色く湾曲しているのに注目
写真3 初期病徴 : 茎盤の外側にもカビ(病原菌)の姿が見える
写真4 左2株:健全株。右3株:病株。バックは筆者のシャツ。これが似合う(?)青年でした
写真5(上)、写真6(下) 末期症状:「尻腐れ」とはよくいったもの。茎盤が崩壊している
《 病原菌・伝染経路 》
Fusarium oxysporum f.sp. cepae(フザリウム・オキシスポーラム・フォルマスペシャーリス・セペ)という長い名前をもつカビが病原菌です。f.sp. の次の言葉はフザリウム菌が取りつくことができる作物を暗示しています。セペはタマネギのことです。堅い膜で包まれた胞子(厚壁(こうへき)胞子)が長く土中で生き続け伝染原となります。厚壁胞子は椰子の実の姿に似た胞子で、このままの姿でなんと5年以上も土中生存できます(写真7)。
写真7 厚壁胞子:可憐な姿だと思うのは筆者だけでしょうか
《 温暖化は乾腐病向き? 》
フザリウム菌は高温が大好きで、28℃前後で活発に生育します。ですからタマネギが肥大する真夏に茎盤の中で盛んに繁殖するのです。その上、暑さは土壌の水分不足を起こします。わずかな水分を精一杯吸収しても、その通路である茎盤(=タマネギにとっては大動脈)に病原菌が侵入しては、タマネギも降参です。ですから高温の年はこの病気にとって要注意なのです。
今回のキーワード:茎盤、鱗茎、厚壁胞子
■執筆者プロフィール
児玉不二雄
Fujio Kodama
農学博士・(一社)北海道植物防疫協会常務理事。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。2000〜2014年まで北海道植物防疫協会会長を務める。
45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。
※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土 」に連載しているコラムを加筆・修正したものです
※特別の記載がない限り、掲載写真は著者提供もしくは「北海道病害虫防除提要(第6版)」からの借用によるものです