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第29話・病原体の王様 前編
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

当たり前の話ですが、植物の病気(伝染病)も、人間や動物の感染症と同じように、病気の原因となる微生物(病原体)が、植物の体内に侵入することによって起こります。今回はその病原体のことを、ひとまとめにして話すことにします。

 


 

《病原体の性格》

作物の病気を引き起こす病原体と人間とは、非常に似た“性格”を持っているといえば、驚く方が大半でしょう。ではどう似ているのか—。
病原体も人間も、栄養物、なかんずくその原材料である“でんぷん”を自力でつくることができません。つまり植物(もっと厳密にいうと光合成のできる植物)の労苦の結晶であるでんぷんに頼って生きているという点が似ているのです。人間の栄養といわれる、炭水化物もタンパク質もビタミンもすべて、その原材料はでんぷんなのです。その関係を図1に示しました。この図を見ながら、病原体に親近感をもっていただきたいものです。

 

▲図1 植物の病原体も人間も、植物がつくった養分を“いただく”という点では同じ存在なのだ

 


 

《病原体の姿》

さて、人間は“食べる”という行為で栄養を確保するのですが、病原体はどんなふうにして養分を確保して(=奪って)いるのでしょうか。
表1をご覧ください。まず植物体の最小の構成物は細胞、その大きさは約20×15μm(※1)です。この細胞の中に病原体が侵入して、栄養分を奪うわけです。病原体の中で一番大きいのが糸状菌で、約1.5〜5.0μm、次が細菌で約0.7〜1.5μm、そして最も小さいのがウイルスで約30~500nm(※2)です。ウイルスは超微細のため、普通の顕微鏡では見ることができません。電子顕微鏡が必要です。

 

▼表1 細胞と病原体の大きさ比べ

細胞・病原体 大きさ(約)
植物細胞 長さ15μm×幅20μm


糸状菌(※3)
細菌
ウイルス
1.5〜5.0μm
0.7〜1.5μm
30〜500nm

※1 μm:マイクロメートルと読む。1mmの1000分の1の長さです。
※2 nm:ナノメートルと読む。1μmの1000分の1の長さです。ウイルスの大きさの表示に使われます。
※3 糸状菌:胞子の大きさで示しています。

 

後編では引き続き病原体の違いについて解説します。

 


 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。その後、北海道植物防疫協会にて、会長理事等を務めた。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土」に連載しているコラムを加筆・修正したものです

※写真:萩田孝志氏、谷井昭夫氏、著者