Report.8 有限会社大塚ファーム
オーガニック野菜の生産から、
加工・販売・流通までを自ら展開。
100年先まで続く営農の姿を示す。
有限会社大塚ファーム
代表取締役社長
大塚裕樹さん
大塚ファームの代表取締役を務める一方で、2011年には障がいのある人の自立支援と有機野菜の有効活用を目的としたNPO法人ゆうきの里おおつかふぁーむを設立。2015年からは新篠津村議会議員も務め、地域のリーダーとして活躍しています。
20歳で農業経営を開始
有機栽培で価値を高める
石狩川に沿って、美しく区画整備された田畑が広がる新篠津村。総面積の約66%を農地が占め、クリーン農業を推進するなど、農業が村の基幹産業となっています。
今回訪問した大塚ファームは、2013年に開墾100年を迎えた長い歴史を持つ農場です。代表取締役社長を務める大塚裕樹さんはその4代目として、曽祖父から続く伝統を引き継ぎつつ、時代のニーズを捉えた新たな農業経営に挑んできました。
大塚さんが独自に農業経営を始めたのは20歳のとき。道立中央農業試験場で学びながら、同時に村の実証ハウスでミニトマトの水耕栽培に取り組みました。初年度の売り上げは290万円あったものの赤字。有機のミニトマト栽培に挑戦した2年目は、野菜の価格暴落に遭います。そこで大塚さんは、マーケティングの大切さに気づいたといいます。
「北海道でミニトマトがよく売れるのは、運動会が行われる5月下旬から6月上旬。その時期に照準を合わせて、1月からトマト作りを始めました。狙いは大当たりで、月の売り上げが200万円ほどになりました」
この売り上げを資産に、レタスなどの有機栽培にも取り組み始めます。やがて、大手スーパーや東京の居酒屋チェーンからの引き合いが増え、仲間を誘って契約栽培に乗り出しましたが、質の管理が徹底されておらず、クレームが発生する事態に。ルール作りや生産物に責任を持つことの重要性を痛感した大塚さんは、23歳で販売会社のオーガニック新篠津を設立。まだ珍しかったインターネットを活用し、取引先に畑の画像を送るなど、先進的な取り組みを行ってきました。
●ミニトマトの横には空芯菜が植えられていました。コンパニオンプランツとしての役割に加え、道内では生産者が少ないことも空芯菜を選んだ理由でした。
●水田には温度と水位を自動で計測するセンサーを設置。低コストで導入でき、スマートフォンで随時確認できるため、省力化に役立っているそうです。
契約栽培や6次化で収益性の高い有機農業を確立
大塚さんの心にあったのは「有機農業の経営をどう確立させるか」ということでした。「売れることがわかっているのが契約栽培のメリット」と言うように、販売先を確保することで、安心して生産に臨める体制を構築。さらにブランディングの重要性に着目し、加工品の製造・販売にも力を入れました。
「加工品を作ることで、テレビや雑誌の取材が入るようになりました。それによって、大塚ファームの名前がまた知られるようになる。加工品は、広告戦略の一つでした」
認知度を高めるために始めた6次化ですが、現在では同ファームの柱の一つに成長。有機の干しいもが8万パック、有機バジルのドレッシングが2万本を売り上げるなど、ヒット商品を生み出しています。
有機農業を事業として確立させた大塚さんですが、初期には病害虫の大発生や生産したもののほとんどを廃棄するといった挫折も経験しました。軌道に乗るまで7年間、試行錯誤を繰り返し、60種ほどの野菜を手がけた中から、現在は30種を栽培しています。「自分の目指す農業を追求できたのは、親たちが築いてきた基礎があったから。それまでの農業形態を大きく変えるのはリスクがありましたが、経済的な余裕があったおかげで、自由にやらせてもらえたのだと感謝しています」
有機農業への真摯な取り組みと、戦略的な経営が評価され、31歳でコープさっぽろ農業大賞を受賞。その後も北海道チャレンジ企業表彰、日本農業賞、農林水産大臣賞などに選ばれ、2014年の農林水産祭では、日本農林漁業生産振興会会長賞と輝く女性特別賞を奥様の早苗さんと共に受賞しました。
●10年前に北海道で初めて有機のさつまいも栽培を開始。現在は安納芋や紅あずま、シルクスイートなど6種を栽培し、大半を干しいもに加工しています。
後継者育成や社会貢献も重視
未来に続く魅力ある農業を
農業を営む上で大塚さんが大切にしてきたのが、人とのつながりです。20代から地元の方のパート雇用や研修生の受け入れ、農業体験学習の実施などを続けてきました。また、福祉施設と連携し、障がいのある人の雇用も推進しています。「障がいがあっても働けるように作業内容を工夫し、延べで100人ほどを受け入れてきました。社会貢献という側面だけでなく、仲間を増やすということでも大きな意義があると考えています」
有機農業には多くの労力がかかるため、作業を軽減するには新技術の導入も必要でした。同ファームでは、ビニールハウスの自動開閉システムやスマートフォンによるハウス内の温度管理、自動運転の田植機、水田の水位・水温センサーといったICT技術を活用し、省力化を図っています。
●小松菜を手際よく選別し、袋に詰めるパートの皆さん。他にもアルバイトや学生のインターンシップなど、多様な人材を受け入れています。
大塚さんに将来展望を聞くと「50歳までに引退して、奥さんに社長業を引き継ぐこと。そして、ゆくゆくは3人の息子たちに、生産、加工、販売の会社をそれぞれ任せること」という答えが返ってきました。高校生と中学生の息子さんたちも農業を継ぐことを志望しているそうで、既に同ファームの頼もしい一員として活躍しています。
「将来は干しいも工場のHACCP認証を取得したい。売り上げが2億を超えたら年2回ボーナスを支給したい」と楽しそうに目標を語る大塚さん。もうすぐ引退、と言いながら、やりたいことは尽きないようです。家族の絆と多くの仲間に支えられ、大塚ファームは次の100年に向かい歩んでいきます。
●出荷時期を迎えた小松菜のハウス。大塚さんが育てる小松菜は驚くほど甘く、生でも食べられるほどのくせのなさが人気となっています。「大切なのは土の力を生かすこと。ぼかし肥料なども使い、野菜のおいしさを引き出すようにしています」
※サングリン太陽園技術情報誌「太陽と水と土」96号「北の農業人」より転載