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Report.20 株式会社自ゆう耕場

ビニールハウスのモニタリングシステムを自作
システムエンジニアから転身した新規就農者の挑戦

 

株式会社自ゆう耕場

堀田 一司 さん

 

大学卒業後、大手IT企業でシステムエンジニア(SE)として23年間さまざまなシステム開発に従事したのち、栗山町で新規就農。現在は、複数社の農業用センサーや自動灌水システムを活用して果菜類を生産する傍ら、前職の経験を生かして安価なセンサーやモニタリングシステムの開発も手がけている。

 


 

憧れから飛び込んだ農業の世界

就農後に見えた、栽培管理の難しさ

 

町内の6割を山林と田畑が占める自然豊かな栗山町で、ピーマン、ミニトマト、かぼちゃなどを生産する株式会社自ゆう耕場。代表の堀田一司さんは、元 SEという異色の経歴を持つ生産者です。「もともと農業に興味があり、自給自足のような生活に憧れがあった」と話す堀田さんは、23年間勤めた大手IT企業を2007年に退社。翌2008年には農業研修の受講を開始し、農業を生業とする第二の人生を歩みはじめます。就農先には、かつて奥様のご実家が農業を営んでいた栗山町を選びました。

 

2012年に株式会社自ゆう耕場を設立し、念願かなって農家としての一歩を踏み出した堀田さんですが、収納当初は農作業の経験が乏しいゆえに味わう苦労も少なくありませんでした。「ビニールハウスのなかで発生している病気などの要因が何なのかの見当をつけることが難しかった。作物に変化が現れてもどのように対処すべきかが分からず、失敗も多かった」と、当時を振り返ります。そんな堀田さんには今も印象に残る出来事があります。それは、日差しの強い夏場に近隣の生産者の手伝いに行った際、半日圃場を離れていたために作付していたピーマンがすべて焼けてしまったという苦い経験です。こうした経験から、堀田さんは栽培管理の難しさを痛感。農作業のノウハウが少なくても、ビニールハウス内の環境をある程度一定に管理でき、刻々と変化する状況に応じて適した作業をおこなえるように、日々の営農に農業用センサーやモニタリングシステムを活用することを決意します。

 

 

手探りの農作業から脱却するため、

自身の経験や人脈を活用したモニタリングシステムを構築

 

就農当初からモニタリング機器の導入に興味を持っていた堀田さんですが、「当時販売されていた製品は価格が高く、なかなか手が出せなかった」と話します。そこで元SEの堀田さんは、前職の経験を活かして自分で安価なものを作ってみようと一念発起。会社員時代の同僚が立ち上げた札幌市内のベンチャー企業とともに、2016年頃からセンサー開発プロジェクトを始動させ、誰でも手入れがしやすいセンサーとモニタリングシステムの開発・販売をおこなっています。

 

現在堀田さんが管理する全15棟のビニールハウスでは、自らが設計を手掛けた温湿度センサーと土壌センサーの2種類のほか、SAc会員のバイエルクロップサイエンスが提供するハウス栽培向けモニタリングシステム「プランテクト®」や、ルートレック・ネットワークスが提供するAI灌水施肥ロボット「ゼロアグリ」など、さまざまなスマート農業機械が稼働しています。ビニールハウスごとに導入するシステムや機械を変え、異なる栽培条件で生育状況を比較。堀田さんは、毎日これらの機器によって蓄積されてゆくデータと作物の様子とを見比べ、より良い栽培方法の確立を目指します。

 

 

(左)温湿度センサー。ビニールハウス内の温度や湿度、CO2濃度のデータを1~2分間隔で反映する。

(右)土壌センサー。水分値、地温、EC値のデータを10分間隔で反映する。

センサーの部品はすべて一般的に流通しているものを使用。計測する指標やクラウドにアップロードされるまでの時間など、細部にまで農業者の堀田さんのこだわりが詰まっている。

 

 

「農業×ICT」を実践する堀田さんが見据える将来

 

堀田さんが手掛けるモニタリングシステムは、プロジェクト発足から7年目を迎える現在まで改良が重ねられており、現在はビニールハウスから離れた場所でも2種類のセンサーで取得したデータを確認できる仕組みを備えています。堀田さんは「センサーから得られる情報を営農に活用して、栽培のあらゆるノウハウを蓄積していきたい。そして自分の成功体験や失敗の経験をも還元し、新規就農者の作業をサポートするシステムを作り上げたい」と意気込み、将来的には、センサーで取得したさまざまなデータと、農作業とを紐づけて一元管理しようと構想します。

 

他社の製品を含め、スマート農業技術を積極的に活用する堀田さん。現在掲げる目標は、自ゆう耕場の経営規模拡大と、自作モニタリングシステムの機能拡充です。ご自身の農作業を後押ししてくれるデータの検証を欠かさずに、圃場の農作物とモニタリングシステムを丁寧に育て上げてゆきます。