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第32話・ジャガイモの夏疫病(ナツエキ・ビョウ) 後編
〜農学博士・児玉不二雄の植物の病気の話

《 夏疫病と疫病 》

夏疫病とそっくりな名前の病気があります。「疫病」がそれです。こちらは従来、北海道気候、つまり冷涼な夏に発生が目立つ病気で(このシリーズの第8話を参照)、ジャガイモの病害防除といえば、疫病だったのです。温暖化で、疫病が夏疫病に取って代わったように見えます。

 


 

《 病原菌の分離 》

植物の病気の診断で欠かせないのが、病原菌の「分離」です。病気に罹った植物体の罹病部分から病原体を取り出す事を、分離(=isolation)といいます。
夏疫病に侵されたジャガイモの葉の病変部分を切り取り(写真1)、寒天ゼリーの上に並べます。このゼリーは、ジャガイモの煮汁に砂糖を加え、寒天で固めたものです。PDA(potato dextrose agarの略称)培地といい、カビの培養に広く使われます。
数日後、病変部を含む葉の切れ端(切片〈セッペン〉)から、カビがモクモクと生えてきます(写真2、3)。こうして分離された糸状菌(=分離菌)は、専門家によって大切に保存されます(写真4、5)。

▲写真1 病斑部から切り取った切片

▲写真2 切片からカビが生育してくる

▲写真3 十分生育した分離菌

▲写真4 純粋培養した夏疫病菌の姿

▲写真5 病原菌の分離実験をする著者(2026年4月)

 


 

《 病原菌と寄主範囲 》

病斑から分離された病原菌の名前は、Alternaria solani(アルターナリア・ソラニ)といいます。分生子(=胞子)を飛散して病気がまん延します(写真6)。この病原菌は、ジャガイモをはじめ、トマト、ナスなどのナス科植物に寄生するほか、シュンギク黒斑病の病原菌として報告されています。ちなみに「疫病」の病原菌は、Phytophthora infestans(フィトフトーラ・インフェスタンス)といいます。胞子の姿を見比べてください(写真7)。

 

▲写真6 夏疫病菌の分生子。1μmは1mmの1/1000です(大澤原図)

▲写真7 疫病菌の分生子。こちらはレモン型が特徴(秋野原図)

 


 

《 防除法 》

1.薬剤の茎葉散布が効果を発揮する病害です。夏疫病の卓効を示す薬剤と、ただの「疫病」の防除薬剤とは、種類が異なりますから注意が必要です。
2.連作を避けるほか、適切な肥培管理をしましょう。

 


 

《 マニアック情報 》

英語では、疫病は「blast」、夏疫病は「late blast」です。

 


 

今回のキーワード:夏疫病と疫病、分離、切片、分離菌

 

■執筆者プロフィール

児玉不二雄 Fujio Kodama

農学博士。北海道大学大学院卒業後、道内各地の農業試験場で研究を続け、中央農業試験場病理科長、同病虫部長、北見農業試験場長を歴任。その後、北海道植物防疫協会にて、会長理事等を務めた。

45年以上にわたって、北海道の主要農産物における病害虫の生態解明に力を尽くし、防除に役立てている植物病理のスペシャリスト。何よりもフィールドワークを大切にし、夏から秋は精力的に畑を回る。調査研究の原動力は、“飽くなき探究心”。

 

※本コラムの内容は、2009年よりサングリン太陽園ホームページ 「太陽と水と土」に連載しているコラムを加筆・修正したものです