Report.11 カネコ種苗株式会社
創業から120年以上、種子業界を牽引しているカネコ種苗。
時代や自然環境の変化の中でも、蓄積された経験と先見性で農業分野を支え続ける。
カネコ種苗株式会社 札幌支店
橋本 和磨 さん
2015年入社。緑飼部の配属となり、札幌支店に着任。
担当する部門では、飼料作物・牧草・緑肥・芝などの種子を取り扱う。
「公園や自然が好き」と話す橋本さんは、興味がある分野での業務に日々やりがいを感じている。
今回、千歳市にあるカネコ種苗株式会社の飼料用トウモロコシ(デントコーン)の試験ほ場にて行われた『フィールドオープンデー』にSAc事務局も参加し、カネコ種苗の新品種育成やスマート農業との関連性についてお話を伺った。
実際に目で見て品種の違いを理解してほしいとの思いから、
試験ほ場を公開する『フィールドオープンデー』を実施。
ー カネコ種苗では、なぜ新品種の開発に力を入れて取り組んでいるのでしょうか
当社は1895年の創業以来、種子分野から消費者ニーズに応え、作物の安定生産を支えるために力を注いでいます。
近年、地球温暖化や自然災害の影響で栽培環境が変わりつつありますが、これらの環境変化を見据えた新品種の開発が、なにより作物の安定生産に欠かせないとの思いがあるからです。
また、耐倒伏性と耐病性をもつ品種の開発も同様に必要です。
そこで当社は、長年培ってきた育種技術を駆使し、新たな品種を開発するための取り組みを続けています。
飼料用トウモロコシでいうと、北海道に全部で6カ所(千歳・南幌・帯広・津別・鶴居・北広島)の試験ほ場があります。
各地の試験場で気候に合わせたさまざまな種類の品種を試験していますが、ここ千歳では、すでに流通している品種30種類ほどに加えて試験中の500種ほどが導入されています。
ー『フィールドオープンデー』にはどのような思いが込められているのですか
新品種や注目品種を農業関係者の皆さまに紹介する目的で行っているのがこの『フィールドオープンデー』です。
このようなツアーは、品種ごとの性質の違いを直接目で見て実感していただくために、販売店や生産者の皆様にご参加いただいています。
『フィールドオープンデー』が、品種の違いや育種に関して理解を深めていただくきっかけとなれば、と思っています。
ちなみに、ここにはたくさんの品種がありますが千歳近郊(道央圏)では95日タイプのKD460が特におすすめです。
茎葉収量・雌穂収量・TDN収量・すす紋病耐病性・耐倒伏性という、飼料用トウモロコシにおいて重要な評価項目どれをとっても他品種に見劣りせず、安定した収量が期待できると感じています。
ぜひ、直に見ていただきたいですね。
現場のさまざまな声が開発の力となる。
足繁くほ場に通う橋本さんが、未来の農業分野を支える育種やスマート農業について考えることとは。
ー 新品種の開発には苦労も多いと伺いました
1品種の開発には、親系統の育種も含めて10年ほどの月日が必要です。
検定試験や試行錯誤が幾度となく重ねられたうえで、ようやく市場に出回るまでになります。
こうして長い年月をかけて行われる育種の原点となっているのは、生産現場の声です。
「こういう品種がほしい」というご要望を聞き取り、社内のブリーダー(育種家)にリクエストするところから、開発がスタートします。
気候変動や病害虫の発生など、先々の変化を見据えた上でスピード感をもって行う品種開発には難題も多いですが、品種にご満足いただけた時の喜びはひとしおです。
ー 新品種の試作調査に携わる橋本さんにとって、スマート農業にどのようなことを期待しますか
個人的には、ドローンの空撮技術に期待しています。
近年は、ドローンで上空から撮影した写真を解析し、葉の色で作物の生育を見極める技術が普及し始めていますよね。
これを応用して、写真から病害虫の発生度合いや倒伏の有無を把握することができれば、非常に効率的ではないかと思っています。
私が関わる種子の中でもデントコーンは特に背丈が高く、最終的に2mを超す背丈になるので、広い圃場の奥まで見て回ることなく全体を把握できるようになる技術は大変魅力的です。
これから先の永続的かつ安定的な農業の発展のために、品種開発の分野においても先進技術の活用が広まることを期待しています。
また私の担当する部門では、”人々が直接口にしないもの”の種子を取り扱っています。
飼料作物や緑肥などのこれらの種子は、作物の安定生産を支えるために必要不可欠であると、誇りを持って販売しています。農業分野の縁の下の力持ちとして、これからも普及活動に努めてまいります。