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Report.10 萩原農場

多方面からの情報収集をもとに工夫を重ねる。
安定した品質と収量で、個ではなく産地としての営農の維持、
ブランド力の向上を目指したい。

 


 

荻原農場
荻原雅樹さん

およそ80年営農を続けている萩原農場の3代目。情報への感度を高め、積極的に営農に活かしている。石狩地区農協青年部連絡協議会の会長も務め、自家だけではなく産地単位で農業の未来を日夜考えている。

 


 

目指すのは産地としての継続的な農業

 

石狩平野の中央部に位置する江別市篠津で農業を営む萩原農場。石狩川流域の肥沃な大地でレタスや白菜、水稲などを栽培しています。この地でおよそ80年間営農を続けている萩原農場の3代目である雅樹さんは、「幼少のころから、いつかは自分も農業をやると思っていましたよ」といいます。指導農業士の認定を受けている父親から栽培技術を学んだ雅樹さん。大学では経営や金融などについて学び、現在の農場経営に必要となる素養を身につけました。
そんな雅樹さんが現在心掛けているのは、作業に応じて適材適所に人を配置すること、多くの人が栽培している作物で高い収量と品質を維持することの2つです。ともに農場で働く人の能力が最大限発揮されるように作業を分担し、希少な品目の栽培に挑戦するのではなく、広く普及している品目を周囲の生産者と変わらない面積で栽培しています。「こだわりというのは消費者がもつもの。個としてブランド形成へのこだわりが強すぎると視野を狭めてしまい、他人の話を聞かなくなってしまうから、あまりこだわりすぎるなと父から言われましたね」という雅樹さん。「1軒の農家が確立したブランドは、その農家が農業をやめてしまったら、そこで終わってしまいます。私は代替わりしても、新たに就農する方でも変わらず維持していける産地としてのブランド力を構築すべきではないのかと考えています」と自家のことだけではなく、産地としての在り方も考えています。

 

 


 

ささいなきっかけが、最新技術の導入につながる

 

多方面から積極的に新しい情報をキャッチすることを意識している雅樹さんですが、かつてはそうではなかったといいます。「例えば、肥料では窒素・リン酸・カリの3要素しか信じていませんでしたね。だから、肥料について3要素以外のことは説明を受けても、正直あまり興味をもって聞いてなかったと思います」こう振り返る雅樹さんですが、あることがきっかけで考え方が変わります。「ある時、騙されたと思って微量要素が入った液肥を使用してみたんですけど、その効果で根張りがよくなったことを実感しました。そして収量にも変化がみられた。この経験をしたとき、先入観をもたずに、今までと違うものも積極的に取り入れてみようと思いました」
この経験から、今までのやり方にとらわれず、新しいことに積極的に取り組むようになった雅樹さん。今年、ハウスでのきゅうり栽培にAIを活用した自動潅水制御ロボットを導入しました。「もともと、きゅうりの栽培方法を従来の栽培方法から別なものに転換しようと考えていました。1年実践してみたところ、収量アップが期待できる反面、作業量が増えるというデメリットも確認できました。何とか新しい栽培方法を継続したかったので、増えてしまう作業とは別の作業を自動化できないか考えて、自動潅水に行き着きましたね」

 


●ハウスでのきゅうり栽培に先進技術を導入。潅水や施肥の作業量は8割ほど減少しているという

 

この自動潅水ロボットの導入により、萩原農場では、人が行うのは作物への効果判定と液肥の微調整だけになり、全て手作業で行っていた際には難しかったハウスの棟数を増やすという課題の解決にも繋がっているそうです。また、自動制御技術は、経験の浅い人にとって適切な施肥で良い作物が作りやすいことも大きなメリットになると雅樹さんは考えています。「新規就農者にとって自動制御技術は、知識と経験を補ってくれる心強い味方になると思います。しかも、最近は初期投資を抑えられるサブスクリプション方式での料金体系も増えてきました。今後はより取り入れやすい技術になるのではないでしょうか」

 

今ではこの仕組みを利用して、従来収穫のできない時期に作物を収穫する栽培体系を実験中の萩原農場。未来への取り組みはますます加速しています。

 


 

これからも産地を維持していくために必要なことを

 

萩原農場では指導農業士の認定を受ける父親の俊裕さんの存在もあり、将来就農を目指している実習生の育成にも取り組んでいます。取材当日も萩原農場で栽培技術や経営を学ぶ実習生がおり、充実した表情が印象的でした。地域全体で安定した品質と収量をあげ、産地として長く農業を継続していくことを目指している雅樹さんは、石狩地区農協青年部連絡協議会の会長として、自家で受け入れる実習生だけではなく同じ生産者仲間にも情報発信を行っています。そこで大事になるのは考え、試行錯誤することだといいます。「私の経験上、どんなに良さそうなものであっても真似をしただけではうまくいかないですね。栽培する環境も違いますし、ただ同じようにすればいいということではないはずです。得た情報をもとに何ができるのか、どのように活かすべきかを自分で考えて、工夫を重ねていくことで、はじめて自身の技術になるのではないかと思います。」そう話す雅樹さん自身、人と会って得られる情報やSNS等で得られる情報に感度を高め、何か取り入れられるものはないか日々考えているのだといいます。

 

これらの活動と並行して萩原農場で行っているのが、幼稚園や小学校の収穫授業、宿泊農業体験などの積極的な受け入れです。雅樹さんは、「参加してくれた方には、農業は生活を豊かにする産業であることを実感してほしい、そして少しでも地域で生産される農作物に愛着をもってほしい」と魅力ある農業の発信に意欲を燃やしています。「農業体験時だけにとどまらず、その後も量販店でこの地域の作物を見かけたときに“以前農作業体験をした産地だ”と親近感をもってもらえると嬉しいですね」そう話す雅樹さん、栽培技術の確立・人材の育成・消費者との繋がり等、様々な視点から萩原農場と産地の未来について考える日々はこれからも続いていきます。